都橋探偵事情『莫連』

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「あたしが首絞める、気を失う寸前で止めるからあのナイフで自分で自分の喉を突いてもらうの」 「何時?」 「今夜しかない」 「それじゃ美味しいもの作るわ」  瑞恵は水島悟最後の晩餐の支度に掛かった。  都橋商店街の二階廊下の手摺にぶら下り二人で煙草を吸っていた。 「君の機転でいい仕事にありついた。上手く言ったら飯奢る」  徳田は日出子に礼を言った。 「犬探しか?」 「悪いが誰にも言わないでおいてくれ」 「それで見つかったのか」  徳田は背広の胸ポケットから依頼の写真を出した。 「あっ」  日出子が声を上げて驚いている。 「見たのかその犬を?」  日出子はその写真を持って父親の営む結婚相談所に駆け込んだ。徳田も追い掛けて入ると所長の岡林が笑っていた。 「よっ、名探偵犬探しだって、あいつ等口聞かねえから厄介だろ」  とっくにバレていた。徳田は頭を掻いて誤魔化した。 「オヤジこれ」  日出子が写真を見せると「おおっ」と立ち上がった。そして徳田のラークをねだった。 「江利川峰子じゃない、まさかこの犬か?」 「所長この女知ってんの?」 「知ってんのって知らないの?」  岡林は売れっ子女優を知らない徳田に呆れた。      
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