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「どっかで見たことあるような気がした」
「映画観なよ、芝居観なよ。それも探偵の勉強だよ。この女を知らないのは徳田所長と石の地蔵さんだけだよ」
やはり女優だった。初対面ではいい印象ではなかった。確かにいい女だが冷たい笑いに切れるのが早い。徳田は苦手なタイプだった。
「探偵、サイン貰って来てくれ。あたいファンなんだ」
「ああ、私の手帳でいいかな?」
日出子が嬉しそうに頷いた。こんな明るい日出子を見るのは久しぶりである。
「あたいも手伝うか探偵」
「手伝うって犬探しか?」
「他に何があるんだ?」
「まあ見掛けたら教えてくれればいい。依頼人の自宅は山手の一等地だ、でっかい屋敷に住んでる。犬の名前はフランク」
「フランク?」
日出子が声を上げた。
「フランクがおかしいだろ」
「江利川峰子の彼氏だよ。フランク桜木」
これで合点が行った。送り主の名前を取って犬に付けた。ハスキーな歌声でムード歌謡を歌う歌手。さすがに徳田も知っている。
「日出子が子犬ならどこに逃げる?」
「逃げたのかその犬?」
「ああ逃げた」
「普通戻るだろ」
「それが戻らない」
勘のいい日出子は犬が逃げる理由に気が付いた。
「虐められてんだろその犬?」
「分からない」
徳田はとぼけた。悪い噂はすぐに広がる。依頼人情報に関わる。ましてや大女優、一回会っただけで悪い印象を持たせてもいけない。
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