都橋探偵事情『莫連』

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「すいません、出しゃばって」  並木が頭を下げた。 「いいよ、助かったよ、俺には止められなかった」  布川は代わりに間に入ってくれた並木に感謝した。中西は関内駅まで女に寄り添った。 「悪かった、俺が一番悪い。ビンタしていい」  中西はソフトを脱いで目を瞑った。『バチン』と音と共に痛みが走った。目を開けると女が笑っていた。手にはハイヒールを持っている。 「女の手にしちゃ鋭いと思ったんだ。そいつで来るとは思わなかったぜ」  既に七時を回り勤め人が駅を目指して歩いている。女の恰好が場違いに映る時間帯になってきた。 「あんたいい人だね」 「そう感じたならハイヒールで殴るなよ」  駅は既にラッシュ時である。 「おい、こっち」  中西はタクシーを掴まえた。 「根岸まで」  運転手に千円を渡した。 「あたし瑠璃子、宝石の瑠璃。あんたは?」 「正義の味方だいい人だ、伊勢佐木中央署の中西たあ俺のこった」  中西がドアを閉めた。  根岸線と横浜線は東神奈川駅で繋がっている。また京急仲木戸駅とも徒歩で二分と乗り換えが利く。満員電車からの乗り換えはスリに取って稼ぎ時である。降りる時のどさくさは絶好のチャンス。押し競まんじゅう状態でスリ放題。三十人のグルがいる。すった瞬間もう他のグルに渡っている。それが全ての車両出入り口で行われている。
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