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並木は頷いて列後方に並ぶ。横浜線の列車がホームに入る。根岸線から降りた客がホームに流れ込む。押される、潰されるように電車に流されていく。発車のベルが鳴る。ドアからはみ出た客をアルバイトの押し屋が懸命に入れ込む、少し入るとドアが少し締まる。並木は昨日と同じ被害者が立っていた位置に上手く乗り込んだ。多田は横浜線に乗らずに階段を駆け上がり怪しい客に当たりを付けている。背広姿の若い男が階段を上がって来る。素振りが不自然、周囲を見回す目が気になった。
「あのちょっと」
多田が声を掛けた。
「あっ吉川さん、遅れましたどうも」
男は多田の呼び止めには反応せずに手を上げて知人らしき男に駆け寄った。多田は勘が外れたと諦めたが知人らしき男が首を傾げた。
「すいません、コートの内で手帳を見せた。今の方はお知り合いですか?」
「いえ、知りません、人違いではないでしょうか」
多田は礼を言って男を追った。男は根岸線下りに乗り込んだ。多田も何とか滑り込んだ。男は横浜で東海道に乗り換えた。川崎で降りて南武線に乗り換え、尻手駅で下車した。
「あのう、すまんが東京へはどぎゃんしていきゃあええか?」
大きな紫色の風呂敷包みを持った老婆が多田の前に立った。
「孫と十年ぶりに会う約束しとる、遅れたら申し訳ない」
サッと横から老婆を躱そうとしたが老婆がすかさず話し掛けた。男の行方を見失った。
「おばあちゃん、駅員に聞きゃあ詳しく教えてくれる」
多田は男の曲がったところまで全力で走ったがやはり見失った。辺りを歩いた。戸建ては見過ごしアパートを何棟か見当つけた。集団スリグループは地元民で形成されていることはないと多田の読みからである。地方出身者ならアパートか安宿を仮のアジトとするだろう。住宅地で宿は見当たらない。アパートの情報をメモして尻手駅に戻った。
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