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「まさか、ヤサが割れてるんじゃ?」
「あたしが止めたよイタチを。人のいい男だ。芝居するあたしの背をずっと擦ってくれたよ。駅前で足止めしたからヤサは割れちゃいないさ。でももう長居は無用だね。番頭さん、地面師が上がると同時にあたし達も広島に戻ろう」
「それがいいですね」
「姐さん仲三が来ました」
並木の尾行に全く気付いていない仲三は姉御に呼ばれてきょとんとしている。
「そこに座りな、仲三、お前どうしてあたしが呼んだか分かるかい?」
仲三は首を傾げた。
「姐さんがおいらを好きになったとか」
幹部達が大笑いする。
「お前に説教しても仕方ないねえ。仲三お前は明日から賄に回りな。童顔で背広も似合わない、だからイタチに匂い嗅がれたんだ。いいね。三日後にはここを立つからその準備をしておくんだよ。分かったね」
「姐さん、分かったよ明日から賄を手伝うよ」
飯の支度や洗濯をする賄が二人いる、仲三はその賄に回された。妙子婆さんが戻って来た。
「武は戻ったかい」
「はい、戻っていますが飲んで寝てます」
「呼んで来な」
妙子婆さんが剣幕である。
「どうしたんだい婆さん?」
番頭の亀山が訊いた。
「つけ馬がいたよ、尻手の駅であたしが路聞きで止めたけどね。危ないとこだったよ。表通りから路地にまで入りやがった」
「妙子婆さんもか、姐御も仲三の尻拭いさ」
亀山が仲三の失態を妙子婆さんに伝えた。
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