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「気にしないで、買い物じゃないんだ」
中西は手帳を翳した。
「伊勢佐木中央署の中西と申します。二三伺いたいことがあります。ご協力お願いします」
「そうよね、あなたが裁縫する姿を想像したら可笑しくてさ」
気さくな女店主はカラカラと声を出して笑った。
「こう?こんな感じ?」
中西が小指を立てて針に糸を通す仕草を真似た。
「面白いねあんたは、なんでも喋っちゃいそう」
中西も笑った。
「こんな感じの客来ないかな?」
似顔絵を見せた。
「大体こんな感じよみんな」
「そうだよね、こんな感じだよね女はみんな」
「声は?私達声で記憶しているの。訛とかない?うちは常連さんが五割、新規のお客様が五割。でも新規の方も必ず常連さんになるわ」
実際に会ったこともない女である。真金町の安宿の女将から得た情報を元に書いた絵である。そもそも女将の記憶が正しいとも限らない。
「声は分からないけど藤の籠を提げている」
「藤の籠も多いのよ、編み物入れるのにちょうどいいのよ、出し入れがし易いから暇があれば裁縫出来るの」
「女将さんから見て三十から三十五歳ぐらいまでの客でいい女っているでしょ、女将さんが男なら遊んでもいいなあって思うような」
「あたしが男なら?そうねえ何人かいるけど」
女主人は想像して笑った。
「住所は分からないよね?」
「現金のお客さんと掛け売りの方も数人いるわよ」
中西は迷惑は掛けないとその中の三十代の女の住所を控えた。
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