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徳田の礼に合わせて道子も礼をした。
「母さん、燗して」
「はい」
義父は愛と言う言葉も持ち出されて諦めた。徳田は再度礼をして二階に上がった。道子の部屋は英一の玩具で一杯である。徳田は寝息を立てる英一に顔を近付けた。
「英二さん、ありがとう」
後ろから道子が抱き締めた。
「幸せ、ずっとこうしていたい」
「俺もだ」
英二は道子をベッドに倒した。
「大丈夫なのか道子の身体?」
「大丈夫、欲しかった」
二階でドンと音がした。義父が天井を見上げた。
「やってらんねえな」
義母と見つめ合い笑った。
徳田は21:00.に道子宅を出た。序に江利川峰子宅に寄る。大きな車が停まっている。客かもしれないと訪問を諦めてフランクの散歩コースを歩くことにした。庭師の若い男が散歩担当、教えてくれたコースを歩く。人家の私道と言うか裏庭を抜けて連光寺境内に出た。
「誰だ」
寺の坊主が徳田に怒鳴った。
「すいません、怪しい者じゃありません、ただの散歩です」
徳田は賽銭を投げて手を合わすとその坊主が念仏を唱えてくれた。女学院の校庭を抜ける。人家の間を擦り抜けて牛坂を下る。ここまで犬が喜びそうな食堂はない。そして散歩コース終点の牛坂下公園でラークを咥えた。公園の街灯と周辺人家の窓から漏れる薄明かりが視界である。隣接する諏訪神社で賽銭を投げ入れ手を合わすと人の動く気配を感じた。物乞いが寄って来た。神社の裏は石川町、橋を渡れば寿町。作業員崩れの物乞いが居てもおかしくない。徳田はラークを一本抜いて物乞いに差し出した。タオルで包まれた顔は真っ黒で闇と擬態している。火を点けると美味そうに大きく吸い込んだ。
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