都橋探偵事情『莫連』

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「探偵に興味はありませんか?出来ればこの犬の行方を探って欲しい。手間は弾みます」  徳田はこの物乞いに親しみを感じた。言葉からやさしさが窺がえる。徳田は犬探しから離れて水島悟と一緒に居た女の行方を探りたい。フランクと接触のあるこの男に頼めれば都合がいい。 「そうですか、探偵には興味ありませんが犬が戻らなければ飼い主が可愛そうですね」 「良かった。一度うちの事務所に来てください。シャワーもあるしソファーもあります。解決するまで自由に使っていただいて結構です。着替えはありますか?」  男は笑って木の根に置いてある大きなビニール袋を指差した。 「ありがとうございます。寿で港湾作業に就いていましたが私にはどうも肉体作業は合いませんでした。力がないから失敗ばかりで迷惑を掛けてしまいました」 「先輩、お名前は?」 「高田と申します」 「今から事務所に行きましょうか?」  男は頷いた。二人は大通りに出て石川町五丁目でタクシーに手を上げた。高田に気付いた運転手は見て見ぬふりして走り去った。 「高田さん、悪いけどその電柱の陰に居て」  タクシーが停まる。徳田が乗り込みドアが閉まる寸前に高田が乗り込んだ。 「おいおい」  運転手がさすが声を上げた。 「何だ客においとは。会社に電話するぞ」  徳田が脅す。 「オキャクサマハドチラマデ」  運転手は鼻を摘まんで言った。
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