都橋探偵事情『莫連』

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 運転手は早く降りてくれと言わんばかりに急停車した。零時を回った。辺りに人影はない。それでも注意しながら林の中を進んでいく。悟は立っているのがやっと、通りから少し入ると密林と変わらない。紀子が押すと悟は土の上に転がった。 「お母さんのところに行きなさい」  そう言って悟の首に撚った毛糸を一周した。肩と水平に絞めその手を悟の背に沿って体重を掛けた。声も出ない、ピクピクと痙攣して首を折った。すぐに悟のズボンベルトを抜いて首に巻き付けた。哀川瑞恵は悟の手に折り畳みの登山ナイフを握らせて喉を突いた。ブスッと二度刺した。悟のポケットには悟自身に書かせた『お母さん御免なさい』のメモ書きを挿し込んである。二人は靴を履き替えた。そして左右に分かれて公園を抜け出した。  伊勢佐木中央署に連絡が入ったのが5:35.連絡をしたのは戸部西署の吉川刑事だった。署に残り名刺とにらめっこしている並木が電話を受けた。 「水島悟が死体で発見されました。色々とご協力いただきありがとうございました」  吉川は殺人犯が逃亡していることで捜査協力をお願いした各署に挨拶代わりの電話である。並木は布川達と別行動で昨日は朝別れたきり会っていない。 「分かりました。担当に繋いでおきます。ちなみに死因は?」 「自殺の線が強いでしょう。ベルトで首を絞めたけど死にきれず喉をナイフで突いています。遺書らしきものも残っています。いくら障害があるとはいえ母親を絞め殺したことに耐えられなかったのでしょう。こう言っちゃなんですが第三者を巻き込まずに済んだのは不幸中の幸いでしょう」  並木はメモを残してまたスリ集団のことを考え始めた。尻手の駅まで追い詰めたが見失ってしまった。多田も並木同様に尻手駅まで追い込んで逃げられた。曲がった路地まで一致している。これから尻手駅を張り込むつもりでいた。多田からは勇み足はしないよう指示を受けていた。奴等は家族のように繋がっているから誰か一人が捜査に気付けばあっという間にグル全員に伝わる。
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