9話

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長いと思っていた休みも、もう終わり。 8日も経ったなんて思えない程あっという間だった。 「じゃあ…向こう戻るね」 「着いたら連絡して」 「…うん」 駅まで圭太に送ってもらったけど、ちょっと失敗だったかもしれない。 離れがたくなっちゃった。 「お袋が、瑞希のドレスは私も一緒に選びたいってさ」 「そうなんだ。家のお母さんも、ドレス選びは絶対一緒に行くって張り切ってた」 お互いにちょっと苦笑する。 あの日、夕方になって圭太に家まで送ってもらったら、案の定お母さん達にはバレていて、私の家で圭太のお母さんも待ち構えていた。 本当は別の機会に話そうと思ってたけど、待ち構えられてたら話さないわけにはいかなくて、結婚しようと思ってるって2人で言ったら… 「お袋達、すげえ喜んでたからな」 「だね」 あまりの喜び方に、こっちが驚いたぐらいだ。 お祭り騒ぎとはまさにこの事って感じだった。 話を聞いたお父さん達まで盛り上がって、両家揃っての豪華な外食にはなっちゃうし。 いつ式を挙げるんだ、何処にするんだ、この辺りの大安がいいんじゃないかとお母さん達は大盛り上がりするし。 私達は完全に蚊帳の外って感じだったけど、圭太が2人で決めるからって言ったら、今度はこっちに矛先が向いて本当に大変だった。 「あの後親父がさ、瑞希が俺の娘になるのか…って何か浸ってた」 「家のお父さんは、圭太が息子か〜って嬉しそうだったよ。今度圭太と2人でお酒飲みたいって言ってた」 「そっか」 「晴斗も喜んでたよ。小さい頃、圭太にお兄ちゃんになって欲しかったんだって」 「そういや昔晴斗に、兄ちゃんって呼ばれてたっけ。あれが本当になるんだな」 「なんかさ…幸せだよね」 「だな」 誰に反対されることもなく、寧ろあんなに大喜びされて。 本当に幸せな事だと思う。 「あ、電車来た」 構内アナウンスと共に、電車が入ってくる。 これで、一旦離れ離れ。 向こうに戻ったら、上司に退職することを伝えて、仕事の引継ぎをして、引っ越し作業をして… やること多くて、意外とあっという間に時間経っちゃうかな。 「…じゃあ、行くね」 「我慢出来なくなったら、会いに行く」 「うん…なるべくすぐ帰ってくるね」 「待ってる」 殆ど人気の無いホームで、柱に隠れてこっそりキスをする。 電車に乗り込んで出発した後、ホームに居る圭太が見えなくなるまで手を振り続けた。
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