1話

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部屋に1人きりになり、荷物整理もそこそこに窓からの景色を眺める。 「懐かしいな…」 何も変わってない景色。 見えるのは、山と田んぼと畑が殆どという田舎っぷり。 今住んでいるほぼコンクリートの世界とは正反対だ。 近所中が顔見知りで、誰に会っても名前が分かる。 そんな生活が嫌になったわけじゃなかったけど、都会の暮らしに憧れてここを出て行ったのは大学に入る時。 大学を卒業した後そのまま向こうで就職して、気付いたらもう31歳。 アラサーと言われる年齢になってから、実家に帰れば結婚の事を聞かれるようになって、中々帰り辛くなった。 実家に帰ってくるのは、実に2年ぶり。 別に結婚したくないわけじゃない。 今まで彼氏だっていたし、好きな人だって昨日までいた。 「男運ないのかなあ…」 今まで付き合ってきた男達には浮気をされることも多かった。 酷い時には、二股されてて私の方が浮気だったこともある。 そして、昨日まで好きだった人は既婚者だった。 異動してきたその人を好きかもと気付いたのは、1年前。 既婚者だと知ったのは、3か月前。 その間に告白とかアプローチをしなくて良かったと心底思った。 自分の気持ちを終わらせたくて、振ってくださいとお願いして告白したのは昨日の事だ。 既婚者なのは知っているし、ただ伝えて終わらせたかっただけ。 身勝手なのも、気まずくなるのも承知の上。 なのにあの人は、嫁とは不仲だから付き合ってもいいよ、と平然と言った。 「…こっちが良くないわ」 不倫なんてごめんだ。 不仲なんて言っておいて、実際はそんな事無かったりするって、友人の経験上知っている。 だから、そのつもりは無い、と告白した私が断るという不思議な状況だった。 既婚者だと知らずに告白なんてしていたら、私は知らずに不倫に足を突っ込んでいたのかと思うと、恋心も霧散した。 この帰省は、本当は傷心旅行的な意味も含めてのものだったのに、実際の私は傷心していないんだから笑えない。 男を見る目が無い自分には傷ついているけど。 ここまでくると、本当に好きだったのかどうかすら怪しい。 単純に憧れ程度だったのかなあ… 今までも、好きで好きで仕方がない、みたいなことにはなった事が無い。 浮気や二股をされた時も、泣いたり責めたりすることは無かった。 当然嫌な気持ちにはなるけど。 「恋愛って、皆どんな風にしてるんだろ…」 誰にともつかない疑問を口にしながら、移動疲れのせいか不必要な部屋の片付けのせいか、気付いたら眠ってしまっていた。
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