609人が本棚に入れています
本棚に追加
部屋に1人きりになり、荷物整理もそこそこに窓からの景色を眺める。
「懐かしいな…」
何も変わってない景色。
見えるのは、山と田んぼと畑が殆どという田舎っぷり。
今住んでいるほぼコンクリートの世界とは正反対だ。
近所中が顔見知りで、誰に会っても名前が分かる。
そんな生活が嫌になったわけじゃなかったけど、都会の暮らしに憧れてここを出て行ったのは大学に入る時。
大学を卒業した後そのまま向こうで就職して、気付いたらもう31歳。
アラサーと言われる年齢になってから、実家に帰れば結婚の事を聞かれるようになって、中々帰り辛くなった。
実家に帰ってくるのは、実に2年ぶり。
別に結婚したくないわけじゃない。
今まで彼氏だっていたし、好きな人だって昨日までいた。
「男運ないのかなあ…」
今まで付き合ってきた男達には浮気をされることも多かった。
酷い時には、二股されてて私の方が浮気だったこともある。
そして、昨日まで好きだった人は既婚者だった。
異動してきたその人を好きかもと気付いたのは、1年前。
既婚者だと知ったのは、3か月前。
その間に告白とかアプローチをしなくて良かったと心底思った。
自分の気持ちを終わらせたくて、振ってくださいとお願いして告白したのは昨日の事だ。
既婚者なのは知っているし、ただ伝えて終わらせたかっただけ。
身勝手なのも、気まずくなるのも承知の上。
なのにあの人は、嫁とは不仲だから付き合ってもいいよ、と平然と言った。
「…こっちが良くないわ」
不倫なんてごめんだ。
不仲なんて言っておいて、実際はそんな事無かったりするって、友人の経験上知っている。
だから、そのつもりは無い、と告白した私が断るという不思議な状況だった。
既婚者だと知らずに告白なんてしていたら、私は知らずに不倫に足を突っ込んでいたのかと思うと、恋心も霧散した。
この帰省は、本当は傷心旅行的な意味も含めてのものだったのに、実際の私は傷心していないんだから笑えない。
男を見る目が無い自分には傷ついているけど。
ここまでくると、本当に好きだったのかどうかすら怪しい。
単純に憧れ程度だったのかなあ…
今までも、好きで好きで仕方がない、みたいなことにはなった事が無い。
浮気や二股をされた時も、泣いたり責めたりすることは無かった。
当然嫌な気持ちにはなるけど。
「恋愛って、皆どんな風にしてるんだろ…」
誰にともつかない疑問を口にしながら、移動疲れのせいか不必要な部屋の片付けのせいか、気付いたら眠ってしまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!