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2話
帰省した翌日、お母さんがとんでもないことを言い出した。
「は?お見合い?」
「そうよ。だって8日もこっちにいるんでしょ?いい機会だから、お見合いの1個や2個してみたら?」
お見合いなんて、そんな気軽に出来るもんじゃないでしょ…
何その軽いノリ。
「嫌だよ。そもそもお見合い相手なんていないでしょ、この辺」
「あら、そんなこと無いわよ。ほら、そこの角を曲がった所のお祖母ちゃんのお孫さんまだ独身だし、突き当りのお家の息子さんだって…」
「お祖母ちゃんの所の孫ってまだ23歳とかでしょ。突き当りのお家の息子さんは40歳超えてるじゃん。しかもバツイチだし」
「贅沢は言えないでしょ。あんたももう30歳超えてるんだから」
「大体仕事あるんだから、こっちでお見合いしても意味ないでしょ」
「辞めて戻ってくればいいじゃない」
「簡単に言わないでくれる?」
「お袋、それぐらいにしときなよ。姉ちゃんだって色々あるんだし、仕事なんてそう簡単に辞めれるもんじゃないって」
晴斗がこっちの味方をしてくれたおかげで、分が悪いと思ったのかお母さんが漸く黙り込んだ。
恐らく晴斗も、早く嫁を貰えと言われているに違いない。
だから、私の気持ちが分かるんだと思う。
さて、時刻は夕方。
家に居ても暇だし、お母さんにまたお見合いだのなんだの言われても嫌だし、外でもぶらぶらしようかな。
「私、ちょっと散歩してくるわ」
「それなら、裏の田丸さん家にスイカ持って行ってくれない?」
「スイカ?」
「この前ね、屋根の修理をしてもらったのよ。ちょっとだからお金はいいって受け取ってくれなかったから、せめてお礼にね」
「いいけど…あんまり重くないのにしてよ」
田丸さん家か。
そう言えば、大工さんだっけ。
…私の1個下の男の子がいるんだよね。
ちょっと口が悪くて、いつも私の事揶揄って楽しんでた。
私の方が年上なのに。
小さい頃はいつも一緒にいたんだけど…
「ほら、これお願いね」
「でかっ。もっと小さいの無かったの?」
「お礼だって言ってるでしょ。小さいのなんか持って行ってどうするのよ」
だからって、何もこんな重そうなやつにしなくても…
仕方ない、持って行くか。
「行ってきまーす」
両手でスイカを抱え家を出ると、夏の強烈な日差しを感じる。
夕方なのにまだまだ日差しが強いな。
日焼けするの嫌だから、本当は日傘も使いたいけど、スイカのせいで使えない。
田丸さん家は家のすぐ裏だけど、回り込まないといけないから、歩いたら5分ぐらいはかかる。
スイカの重みを感じながらボチボチ歩いていると、丁度田丸さん家に行く曲がり角から、背が高くてちょっとがっしりした男の人が出てきた。
誰だろ。
でっかい人だな…あんな人この近所に居たかな。
しかも若そう?
私のいる方向へ向かってくるその人は、顔にもあんまり見覚えがない。
でも何というか、昔はやんちゃだったんだろうなっていう雰囲気が漂っている。
すれ違うのに何も言わないのは失礼だよね…
「こんにちわ」
「…ちわ」
5文字の挨拶を2文字で返されたな~。
まあでも、返ってくるだけいいか。
さて、ここを曲がってあそこを曲がれば…
「ちょっと待て」
「…え?」
呼び止められて振り返ると、さっきの男の人がいつの間にか目の前にいる。
「えっと…何か御用ですか?」
目の前に立たれると、その迫力に内心ビクビクしてしまう。
何か私、怒らせるような事したっけ…?
「瑞希だろ」
「へ?はい…そうですけど…?」
何で私の名前を知ってるんだろう。
あなたは一体どちら様?
「…俺の事、覚えてねえのかよ」
「えっと…?」
覚えて無いのかって聞かれるって事は、間違いなく私の知っている人だよね。
え~…こんなやんちゃそうな知り合いいたかな…
中学の同級生?それとも高校?
いや、もしかしたら先輩って可能性も?
もしくは後輩…
「…あ」
右目に黒子がある。
「もしかして…圭太?」
「やっと思い出したか」
「えええええ!圭太なの?!」
「何でそんな驚くんだよ」
「いやだって…全然知らない人だと思ってたから」
「そりゃまあ…もう10年以上会ってないし」
…そういえば、何時からだろう。
こんなに家が近くなのに、全然圭太に会わなくなった。
多分私が高校に入ってしばらくしてからだったような…
ということは、圭太とちゃんと話すの15年ぶりぐらい?!
そりゃあ知らない人にも見えるよね。
「圭太、今何してるの?」
「親父と一緒に大工してる」
「へえ。結婚してるの?」
「…してねえけど」
「え?!そうなの?」
絶対してると思ってた。
だってほら、田舎のやんちゃな人達って結婚早いイメージあるし。
高校卒業したらすぐ結婚!みたいな。
「どんなイメージだよ。…そっちは?」
「結婚の事?してないよ」
「…行き遅れてんな」
「うるさいよ。自分だってしてないくせに」
「男と女じゃ違うだろ。それに俺、瑞希より年下だし」
「1個だけでしょうが。そんなの大差ないわよ」
「…そうだな」
ん?
何で嬉しそう?
「というか、そのスイカどこ持ってくの?」
「これ?圭太の家に持って行こうとしてたんだよ。屋根の修理してくれたんでしょ?そのお礼にって」
「ああ、あの時のか。それ重くねえの?」
「重い。あ、丁度いいし、圭太に渡していい?」
「しょうがねえな。その代わり、家まで一緒に来いよ。瑞希が来たら、お袋喜ぶから」
「そう?じゃあ、行こうかな」
圭太にスイカを渡すと、怪力女だな…と言われたから腕を殴っておいた。
本当、そういう所小さい時と変わってない。
でも、圭太とまたこんな風に話せて嬉しいな。
中学生ぐらいから、何となく距離を置かれてるような気がして、ちょっと寂しかったんだよね、あの頃。
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