3話

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「あら~!瑞希ちゃん!美人になって~!」 「あはは。お久しぶりです、おばさん」 「これ、この間の屋根のお礼だってさ」 「あらあら、別に良いのにお礼なんて。ありがとうね。あ、瑞希ちゃん上がって頂戴。久しぶりに色々話したいわ〜」 …まあ、断れないよね。 「じゃあ、ちょっとだけお邪魔します」 「どうぞどうぞ。ほら、圭太!あんたぼさっとしてないで、瑞希ちゃん案内してあげて。私はお茶淹れて来るから」 「案内するほど広くねえだろ、この家。それに瑞希来た事ある…」 「何か言った?」 「…何でもねえ。瑞希、こっち」 「あ、うん」 流石おばさん。 あの圭太が一瞬ビクッてなってた。 「適当に座ってろ。その内お袋来るだろ」 「圭太はいないの?」 「俺はちょっと用事あるから」 そう言えば、何処か行こうとしてたよね。 え、じゃあ私、スイカ渡さない方がよかったんじゃ… 「ごめん。私出かける邪魔したよね」 「別に。無理だったら預からねえし」 「でも、この時間から用事なんてデートだったんじゃないの?」 「は?デートじゃねえよ。離れの部屋を作って欲しいって頼まれてる家に、見積もり届けに行くだけだし」 「そうなんだ。でも仕事の邪魔しちゃったってことでしょ。ごめんね。スイカ運んでくれてありがと」 「別に、礼言われる程の事はしてない。…俺行くから、お袋来たら言っといて」 「分かった。行ってらっしゃい」 「…ん」 圭太、最後の方照れてたな。 お礼言われると照れる癖、変わってない。 「お待たせ、瑞希ちゃん。あら?圭太は?」 「見積もり届けに行くって出かけて行きました」 「あら、そうなの?まあでも、すぐ帰ってくるわね」 お茶とお菓子を運んできてくれたおばさんは、向かいに座るなりマシンガンのように話し始めた。 よっぽど話し相手が欲しかったのね… まあ、圭太もおじさんも、話を聞くってタイプじゃないもんなあ。 お茶やお菓子を摘まみながらも止まることの無いおばさんのトークを、適度に相槌と返答を交えながら聞く事早30分。 「…ただいま」 「あら、圭太が帰ってきたみたい。もうこんなに時間経ってたのね〜。付き合ってくれてありがとう、瑞希ちゃん。おばさんちょっと用事してくるわ」 おばさんが部屋から出て行ったのを見て、思わずホッとする。 おばさんの話聞くのは別にいいんだけど、30分ノンストップは流石に疲れる。 というか、今帰れば良かったな。 「え…お前まだいたの?」 「あは…おかえり」 流石にもう居ないと思っていたのか、私を見て心底驚いた圭太は、次の瞬間には呆れた表情になっていた。 「途中で適当に切り上げて帰ればいいだろ。昔から変わんねえな、そういうとこ」 「え?そう?」 「昔もしょっちゅうお袋の長話に付き合って、帰るタイミング見失ってただろ。さっさと適当に話切ればいいのに、俺が間に入るまで付き合っててさ」 「そう言われてみれば、そうだったかも?」 「まあ、お袋瑞希の事滅茶苦茶気に入ってたからな」 確かに、娘同然に可愛がってもらっていたような気がする。 この辺の人は、皆そんな感じなんだけどね。 「ねえねえ瑞希ちゃん。今日お夕飯食べていかない?折角久しぶりに会えたんだし」 戻ってきたおばさんの突然のお誘いに、一瞬戸惑う。 「え、でも、そんな急に悪いですよ」 「大丈夫よ。お母さんにはおばさんから連絡しておくし、おばさん気合い入れて作るから」 この感じ、子供の頃にもあったなあ。 流石にもう子供じゃないから、連絡ぐらいは自分でしないとね。 「いえ、連絡は自分で…」 「瑞希、遅い」 「え?」 「お袋、もうおばさんにメールしてる」 「へ?」 圭太の視線を追うと、おばさんが携帯を持って、よしっ、と言っている所だった。 「お母さんにはメールしておいたから大丈夫よ」 「はあ…あ、でも家のお母さんあんまりメール見な…」 「あ、返信来た。お母さん了解ですって」 え、何で? お母さん返信早くない?! 私のメールは見ても無かったくせに! 「…帰りたいなら、お袋説得するけど」 「いい。寧ろ今は帰りたくない」 「は…?まあ、瑞希が良いならいいけど」 今帰ったらお母さんと喧嘩する自信しかない。 ちょっと圭太の家で頭を冷やす時間をもらわないと。
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