4話

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「お母さん、浴衣ってある?」 「浴衣?どうしたの急に」 「明日圭太と花火大会行くんだけど、浴衣あったら着て行こうかなって」 「へえ、圭太君とねえ。私が昔着てたのがあったかしら」 箪笥を探す後ろ姿を眺めながら、ふとお母さんとの会話を思い出した。 そして、おかしなことに気付いてしまった。 何でお見合い相手の候補に、圭太の名前は無かったんだろう? 20代や40代より圭太なら年も近いし、結婚もしてないなら一番候補に挙がりそうなのに。 「…あった。これならあんたでも着れるんじゃない?」 「あ、本当だ」 紺色の浴衣なら、私の年齢で着ても大丈夫よね。 「あんたと圭太君が花火大会に行くの、小学生以来なんじゃないの?」 「多分そうだと思う」 「本当は圭太君があんたと結婚してくれたらと思うんだけど、こればっかりは仕方ないわよねえ」 「仕方ないって何が?」 「圭太君、昔からずっと好きな人がいるって、お見合いも全部断っちゃうんだって。彼女がいた事もあったみたいだけど、もう何年もそんな気配が無いって奥さんが嘆いてたわ。まあ家も似たようなもんだから、いつも2人で…」 お母さんの愚痴が、途中から耳に入ってこなかった。 圭太にずっと好きな人がいるなんて話、私聞いたこと無い。 当然か…もう15年ぐらい会ってないんだもんね。 「好きな人いたんだ…」 …変だな。 何で私、こんなに悲しいんだろ。 中学生の頃の、圭太に避けられてるって気付いた時の感覚に似てる気がする。 きっと他にも、私の知らない事沢山あるんだろうな… 会わなくなってからの圭太を、私は知らないし。 中学生までは、圭太の事なら何でも知ってると思ってたのに。 自分の知らない圭太を知っている人がいると思うと、まるで嫉妬してるみたいに、何だか複雑な気持ちになる。 長い間会ってなかった癖に、何言ってるんだろ、私…
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