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1話
「ただいま~」
「え?瑞希?あんたどうしたの?」
久しぶりに実家に帰ったというのに、娘の顔を見て第一声がそれってどうなの。
「どうしたのって…今年は長期で夏休みが取れたから帰るって、前から言ってあったでしょ。昨日もメールしたじゃない」
「そうだったっけ?母さんそんなメール知らないわよ」
知らないんじゃなくて、見てないんでしょ…
「どれくらいこっちにいるの?」
「8日」
「あら、そんなに?じゃあ買い物行ってこなくちゃ」
「いいよ別に、適当な物で」
「毎日冷や奴と野菜じゃ嫌でしょ」
「それは嫌だ」
お母さん達は本当にそんな食事をしているのか、逆に聞きたい。
「あんたの部屋ちょっとだけ荷物置いてあるから、適当に片付けといて」
「私が片付けるの?」
「当たり前でしょ。あんたもう31歳なんだから、それぐらいしなさい」
それ、年齢関係ないし。
そもそも私が置いた荷物じゃないし。
お母さんが片付けるの面倒なだけでしょ、絶対。
溜め息を吐きながら、2階へ上がって自分の部屋のドアを開ける。
「…どこがちょっとなのよ」
通販で買ったと思われる健康器具やら、よく分からない段ボール等々…とてもちょっとだけとは言えないぐらいの荷物がある。
中々帰ってこない娘の部屋なんて、物置になるのは当然と言わんばかり。
「あれ、姉ちゃん帰って来たんだ」
隣の部屋から5歳離れた弟が出てきた。
ずっと実家にいる弟は、家業の畑や田んぼを手伝っているせいかこんがり黒い。
「ただいま。晴斗、また黒くなったんじゃない?」
「どうなんだろ。自分では気にした事ないからなあ。ところで、入り口に突っ立って何してんの?」
「部屋が入れる状況じゃないんだよね」
不思議そうに部屋の中を覗いて、納得したように頷いている。
「そういや、お袋が色々置いてたな」
「お母さん、ちょっと荷物が置いてあるって言ってたんだけどさ、これどう見てもちょっとじゃないよね。しかも、自分で片付けろって言われたんだけど」
「ははっ。お袋らしいっちゃらしいけど。俺が手伝ってやろうか?」
「うん。お願い」
持つべきものは優しい弟だな、としみじみ思う。
姉の私が言うのも変だけど、本当優しくていい子なのに、何故か結婚出来ないんだよね。
結婚してないのは私もだけど。
「そういや、何で急に帰って来たの?」
「ん~?有休溜まっちゃっててさ。お盆休みに合わせて取ったら割と長くなっちゃったんだよね」
「ふ~ん…はい、これが最後。これなら何とか過ごせるんじゃない?」
「そうだね。ありがとう、晴斗。あ、そうだ。これお土産。晴斗の好きなお菓子だよ」
「お!久々だ~。ありがと姉ちゃん」
お土産のお菓子でここまで喜んでくれる弟、26歳。
…希少だわ。
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