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夕立~誠司の一遍
夕立
アスファルトを焦がしてにおい立つ
思いは尽きずとも
痛みは鈍り
忘れることはないだろうと諦めていたことさえ
なかったことにしてしまう
激しく地面を打ち付けるその音は
蝉時雨さえもかき消して
夏を僕から奪い去る
こんなにもあなたを思っているのなら
別の道を選べたかもしれないのに
そうならなかったのはなぜだろう
答えは風に吹かれることもなく
ただただ、雨に打たれている
路地裏に咲いた二輪の百合の花
白く美しく気高いその姿に
僕は自分を重ねあわさずにはいられなかった
大粒の雨が痛ましくも力強く降り注ぐ
一方の花はそれに耐え切れず
アスファルトにその屍をさらす
一輪だけ残された花は
雨にも負けずに気高く佇む
落ちた百合は形をとどめず
アスファルトに溶けていく
僕の思いを道ずれにして
やがて雨は通り過ぎ
あったことをなかったことにする
残された百合にミツバチがやってくる
その花はやがて実を結び
再び花を咲かせるだろうか
でもそれは、僕の花ではない
浅はかにもつらつらと
僕は言葉を紡ぎだす
実を結ぶことなく朽ちた花に
命を吹き込もうと試みて
忘れ得ぬ思いをつなぎ止める
愚かなことと知りながらも
不確かなものに思いを馳せる
愚かなことと解りながらも
心の内に朽ちない花を咲かせては
実を結ばない思いとともに
いつまでも雨に打たれよう
雨は未だ降っている
通り過ぎることなく
止まない夕立
朽ちない花
実は結ばずとも
咲き続ける
僕が花を断ち切るまで
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