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遠ざかる春子の背中を見送ったあと、和彦はひとり家に帰った。
鍵をなくした春子が悪い。どうせまたすぐに謝ってくるはずだ。でも、今夜は許してやらない。連絡してきても繋がらないようにスマホの電源を落としてショルダーバッグに入れた。
今夜は駅前のビジネスホテルにでも泊まるだろう。そこで一晩しっかり反省すればいい。それでわかるだろう。明日の反省次第だ。和彦はそう考えた。
翌朝、和彦はショルダーバッグに手を突っ込む。
ん? スマホの横に触れるものがあった。
それは昨日失くしたロッカーの鍵だった。
なぜこんなところに? もしかして春子はサプライズで誕プレをくれるつもりだったのだろうか。
春子の真意を確かめよう。和彦は駅に向かった。
ドキドキしながらロッカーの鍵を開ける。
ボストンバッグは荷物がいっぱいに詰まっていた。
春子のことだ。この中にプレゼントを入れてきたに違いない。それならそうと素直に言ってくれればいいのに。少しイラつきながら、和彦はジッパーを一気に引いた。
あ。中を見て和彦の手は震えた。
バッグの中には、ふたりが学生時代に使っていたペアのパジャマや和彦が彼女に贈った服などが、まるですべてを清算するかのように詰め込まれてあった。
それで和彦はようやく悟った。
もう春子は戻ってこないということを。
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