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気温は25度、外にはひぐらしの鳴き声が聞こえ、夏の少し暖かい風が吹いている夕方。
河川敷で二人の中学二年生の少年が殴り合いのけんかをしていた。
「っちぃ、もう腕が痛いや。今日も引き分けか、、」
顔中血だらけで何とか動かせる左腕で右腕を抑えながら翔は言った。
「おい!まだ俺は戦えるぞ。諦めてんじゃねーよ!」
これもまた、顔中血だらけで足は震えている、立つことがようやくな酷い様子な昭が言った。
「じゃー、最後の一発かましたるわ。」
翔が使いこなせてない左腕をグワングワン回しながら昭に殴りかかろうとした。
「え、ちょっと、腕が痛いって演技だったのかよ!!」
昭は必死の思いで守りの体勢に入る
その時。
河川敷の向こう側からオレンジ色をした夕日がゆっくりと僕たちを照らすように昇ってきた。
昭は安心したかのようにほぉっと溜息をした。
「今日はもう終わりだな、今回も俺の勝ちってことで」
「ちょ。待てー!俺は負けを認めてないぞーー!」
立ち去る翔に対して叫んで抵抗する昭。
こんな光景は何度目のことか、昭はいつも負けっぱなしだった。
僕たちの出会いは入学式が入って一か月過ぎた頃だ。
南丘小学校を率いていた翔、通称「南丘の狂犬」と北谷小学校を率いていた昭。
通商、「北谷の悪魔の子」とまで呼ばれていた。手下を呼んで放課後河川敷で大乱闘を起こすと翔の方から申し出が上がったのだ、それに昭は乗っかった。
しかし、手下どもは部活動や塾の勉強を理由に大乱闘に参加しなかった。
結局残ったのは翔と昭二人のみになってしまった。
仕方なく二人は河川敷でタイマンを取ることにした。
両者の強さは互角で決着がつくのにも時間がかかってしまった。
勝ったのは翔だった。
瀕死の状態な二人だったが微かな力を頼りに翔が昭の左頬を殴ってダウンさせた。
それと同時に河川敷の向こうからオレンジ色の夕日が昇ってきた。
その景色を見た翔は言った。
「なぁ、今日は何曜日だっけ?」
こいつは今日の曜日も把握できないくらい頭が固いのか。
「今日は水曜だ。」
ゴールデンタイムの番組が一週間で一番面白い曜日なのでバカな僕でも覚えている。
「これから、毎週水曜日の放課後にここでタイマンしようよ。」
「夜遅くにはならなきゃいいけど。」
「そうだな、俺もはねとび見たいしさっきみたいに夕日が昇ったら時間切れというルールにしよう。」
こいつもはねとび見ているのか。少し話が合いそうだな。
「でも、痛い思いして見たくないわ。」
僕は弱気な本音を零してしまった。すると翔がニヤリと何だか悪いことを考えてきたのだろうと思わせる笑顔を僕に見せた。
「俺に勝つことができたら痛い思いしてても楽しく見れるんじゃねーの?」
僕はその言葉で闘争心の火がついた。
負けず嫌いの性格だったのでさっきの言葉で煽られているのだと感じたのだ。
「よし、毎週水曜日のここだな、次は勝ってやる!」
こんな感じで僕たちは毎週の水曜日河川敷でタイマンを張ることになった。
中学生の頃は何回も迷惑をかけて先生に怒られるのが日常で小テストも定期テストも
平均点以下。そのせいで成績も悪い結果になってしまった。
中学三年生の前期、放課後に俺と翔が先生に呼ばれて進路相談を急遽、行うことになった面談の際に二人の成績や学力は絶望的で県内の最低ランクの県立高校に受かることも難しいと先生に言われてしまった。
僕は親からお金のかからない県立高校には通って欲しいと頼まれているので勉強することを決意した。
しかし、翔は勉強もしないで格闘家になる夢を先生に宣言した。
「何を言っているんだ!!学生はきちんと勉強していい高校に行っていい大学に通っていい企業に就職することが理想の形だぞ、格闘家で成功するなんてごく一部の人間だ。あまり舐めていると大変な目に合うぞ。」
教師とはあまりにも卑怯な生き物である。歌手になりたい。芸術家になりたい。
という大きな夢を持った生徒に対して大学に行け、という現実的な夢を押し付ける。
「先生、」
翔が立ち上がって言った。
急に立ち上がった翔を見てびっくりした。
「俺、やるからにはトップを目指すんで。」
翔はそう言って教室から出て行った。
フフフ、やっぱ凄いわあいつ。
喧嘩も強いし、ちゃんとした夢を持って誰に何と言われようがとその夢を諦めないで
トップ目指す宣言している。僕には絶対できない。
まぁ、少し尊敬しているところもある。
先生は呆れた顔をしたまま「今日はもう終わりだ。」と
机の上に置いてあった僕たちの成績表が入ったファイルをとんとんと形を直して去って行った。
僕は翔を探しに行こうと学校を探し回るが見つからない。
いつもの河川敷で小石でも投げてるに違いない。僕は河川敷に向かった。
いた。
そこには体育座りでしょんぼりしながら小石を投げている少年がいた。翔だ。
「やっぱここか。」
その声に反応して翔は僕の方を振り返ると今にも泣きだしそうな顔をしている。
喧嘩は強いのに意外と泣き虫なのか。僕は翔の見れない部分が見れて少し嬉しかった。
「なんだよ。。」
ボソッと翔は俺に言った。
「いや、普通に心配だったし。ここだろうなと思って来た。」
「なんだよそれ、、」
泣きそうな顔から今度は恥ずかしい顔を見せた。表情豊かな男の子である。
「ほんとに、格闘技でトップ目指すのか。」
「そうだ、だから明日から学校に行かない、母親の友人で格闘技のジムを経営している人がいるから毎日そこに通って練習する。親には伝えている。」
「そうか、お前はお前の道を進めばいいさ、俺はこれから勉強頑張って県立の高校に通うのが目標だ。」
「真面目くんかよ(笑)」
「いいだろ別に。」
辺りが暗くなろうとしている。
「なぁ、最後のタイマン張ろうぜ」
「最後とか言うなよ、、
いいぜやろうか。」
そして少年二人は最後の決着をつけることにした。
その戦いは夜遅くまで続き、勝敗は引き分けとなった。
その後翔は宣言通り学校に来なくなって僕はひたすら勉強することに時間を費やした。
周りからは毎週のように喧嘩していたヤンキーが急に真面目君に生まれ変わることが気味悪く思う人や馬鹿にしている人が多いことから僕はクラスや学内からも浮いた存在になってしまった。
それでも僕は友達を作らず、勉強することだけを諦めないでやっていた。
その結果、偏差値が一番低い県立高校に受かることができた。
案外、テストの結果が平均点並みの点数で偏差値48~53程度の高校は受かっていたとは思う。
成績が良かったら。。。
成績は本当に酷かった。この場では言えないほどに酷かったもんだから受かった高校も面接で成績のことを聞かれて落とされるのではないかと不安で頭の中がいっぱいだった。
卒業式、僕は外に咲く桜の花びらを眺めながら思う。
ー翔、僕は高校生になれたよ。君は今どこで何をしているのか。
気になるよ、ずっと気になっている。家に帰っても、自転車で遠くの方へ出かけても、高校の勉強を頑張ってしている時も思っている。
会いたい。会いたいよ。―
式が終わって河川敷に向かう、いるかもしれない。今日こそいるかもしれない。
変な期待感を抱きながら走って向かう。
目的の地へ着くと体育座りをしながら小石を投げている少年がいた。
あれは翔か?
気になって声をかけようとするが、その少年の母親らしい者が声を上げて探し回っていた。
少年はその声を聴いたときにすぐさま母親を見つけ、名前を叫んで手を振った。
目には涙を浮かべ、鼻水を垂らして号泣どころのレベルではないくらい泣き叫んでいた。
どうやら迷子だったらしい、見つかって良かった。
良かったけど、翔の姿がいなかったことに少し心がえぐられるそういう気持ちになったのだった。
ーそれから時が経って、僕は30歳になった。―
高校を卒業した後、プログラミングの大学に入学
今は地元のIT企業の会社で働いて奨学金を返しながら元気に働いている。
昔と比べて街の様子が変わった。
高層ビルも建てられるようになり、駅が改築されて広くなったり、電車で大阪のほうまで行けるようになったり、外国人が増えたり物凄い変わりようであった。
IT企業の仕事が終わり、帰ろうとした時に上司から飲みの誘いを受けた。
同僚と先輩社員合わせて四人来るよと言われたので誘いを断るのも難しく
渋々行きたくもない飲み会に行くことになった。
はぁ、こういう時に翔みたいなバシッと言える勇気があればなぁ。
30歳になっても俺は翔のことを尊敬していてどこかで会いたいと強く思っている。
仕事が大変で朝は早いわ、帰りは遅いわで探す暇もなかった。
会社付近の飲み屋についた。
上司のどうでもいい話を聞きながら飲むお酒は美味しくない。
同僚と先輩社員も同じことを思っているか、うん、はい、そうですねの一点張りで話を流している。上司がトイレに行ってる時に三人で上司の愚痴をコソコソと話す
のが雄一の楽しい時間だった。
店に入って一時間程度、酔いも丁度いい感じに回り始めたころに
ガラガラと店の引き戸が開いた音が聞こえ誰かが入ってきた。
「すいません!遅れました!」
活気のいい謝罪の声、どこか聞いたことのある昔懐かしい声。
私は思わず振り返った。
その姿は派手な金髪、タンクトップと下は灰色のジャージで田舎者のヤンキーみたいである。細い体型の割にはガッチリと太い力拳。何か格闘家をやっているか。あー。格闘家
ってよく見たら翔じゃん!!え、昔と比べたら随分背も伸びてでも顔はあんまり変わってない。こんなところで会えるなんて思ってもいなかった。
あまりの衝撃的出来事で酔いが冷めてしまった。
翔がこちらの方を見た。
やべっ!!こっち見た!まだ、心の準備が整ってないのに。
「昭?、昭だよな、俺翔だよ!覚えているか?」
あちらから声をかけてきた。
「ああ、覚えているよ。久しぶりだな!」
一週間前からここで働きながら格闘家の道を歩んでいるらしく。
来月には小さい格闘の大会に出ることが決まっていることを話してくれた。
こいつは本当にすごい奴だ。頭は良くないけど、誰よりも夢を諦めない努力家
俺は、こいつが少しずつ夢に近づいていることが嬉しい。
「翔、来月の大会俺見に行くわ。」
「おお、ありがとう。俺もう出勤しなきゃいけないから。また!」
翔はバイトの制服に着替えるとすぐさま接客と酒の提供に走った。
今日は沢山飲もう、翔のデビュー祝いとして自分自身に乾杯!
次の日、二日酔いで頭が痛くなった。今日が休日でほんとに良かった。
―大会当日―
座席は1400席程度で間隔を開けて閲覧するシステムで
客の数もかなり少ない。
応援するときは声を出さないことが条件で拍手のみという新ルールも追加したらしい。
選手の入場が始まった。派手な金髪、細い体型をした割にガッチリとした太い力拳
翔君が登場。相手の年齢は18歳、体格は翔君とあまり変わってない。俺と12年年下なのか、しかもなんか鼻水垂らしているし変に強キャラ感が漂っている。
果たして翔君はどんな試合を見せてくれるのだろう。
試合開始のコングが鳴る。その音が翔と二人河川敷タイマンを張っていた
際に流れていた夕方のチャイムに聞こえた。
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