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28:番(つがい)
「セレス、君のカイエルと同じだよ。」
そこへ今まで黙っていた、ユージィンが声をかけた。
「え?」
「その男はカイエルだろう?」
「?!なんで、わかったの?」
「同じだと言っただろう?イシュタルはイールだよ。」
「えぇ?!」
一瞬何を言われてるのかと思ったが、セレスティアは思慮を巡らせた。先ほどイシュタルは自分を幼い頃から知っていると言ったこと。初対面とは思えなかったこと。そしてカイエルと同じ、瞳の中の縦長の瞳孔・・・それらのことは胸にストンと落ちたのだ。
「・・・貴方はイールなの?」
セレスティアの問いにイシュタルは優しい目を浮かべ、
「そうよ。だから貴方のことは昔から知っていると言ったでしょ?」
「イールがイシュタルさん・・・」
セレスティアは衝撃であった。まさかイールまでが人化していたなど。だが、カイエルがそうなのだから、他にあっても可笑しくはない。だが、まだ疑問に思うことがあった。
「あれ?でも叔父様のいい人って?」
「そうだよ、イールことイシュタルは僕の愛しいかけがえのない女性なんだよ。」
「彼は私の『番』なのよ。」
そう言うと、ユージィンはイシュタルの腰に手を回し、イシュタルもユージィンに身体をゆだねて、互いに見つめ合っていた。
「え・・・と。」
まさか目の前でいちゃいちゃされるとは思っていなかったので、セレスティアは固まった。
「ん?番??」
我に返り、『番』という聞きなれないワードがあったことについて、また疑問が生じた。
「そうよ、『番』。私の伴侶なのよ、彼は。」
そう言うと、ユージィンとイシュタルは「ねっ」といわんばかりにまたお互いの目を見つめ合った。まさか叔父のリア充を目の当たりにするとは思ってもみなかったセレスティアであったが、ずっとユージィンと一緒にいたイールことイシュタルとなら素直に祝福できると思った。それにイールは自分が竜騎士を目指すきっかけを与えてくれた飛竜でもあるのだ。セレスティアにしてみれば、むしろ彼女にはいろいろと恩もあっただけに、喜ばしいカップリングであった。
「いつの間にそんなことになっていたのかは、全然知らなかったけど、叔父様のいい人が、イールことイシュタルさんなら大歓迎だ・・「あぁ!」」
だが、ここで割って入る声があった。
「番だかなんだか知らねぇけど、そんなことより、俺をこんな目に合わせたってどういうことだよ!」
「あっ」
セレスティアは叔父とイシュタルの爆弾発言で、すっかりカイエルの事を忘れてしまっていた。
「あら、ごめんなさい。そっちのが本命だったわよね。」
そう言いながらも、イシュタルは悪びれる様子はなかった。
「だけど、『番』は貴方も関係することなのよ?」
「なんで、俺が関係あるんだよ?!」
「『番』という言葉に自覚がないようだから、優しいお姉さんが、教えてあげるわね。」
セレスティアはイシュタルのセリフにもしや、と思い当たるふしがあった。(まさか・・・)セレスティアは心の中で、冷や汗をかいていたが、ここでも普段の無表情が役に立ったというべきか、顔には現れていなかった。
「カイエル、貴方の『番』は、そこにいるセレスティアなのよ。」
「な、どういうことだよ?!」
カイエルは吠えたが、セレスティアはやっぱりなという思いであった。あのヤキモチはそういうことだったんだなと。妙に腑に落ちたのだ。
「どういう意味もそのままよ。貴方自身がセレスティアに執着しているのだから、わかるでしょ?」
「それは・・・」
カイエルも番という言葉云々は関係なく、本能でセレスティアに執着していた自覚はあったようで、バツが悪い顔になっていた。
「だが、俺をこんな目にっていうのは、どういうことだ?!人化していることを言ってるのか?」
「いいえ、逆ね。それは封印が解けたからよ。第一の封印解除の条件をクリアできたから、貴方は人化することができたの。」
「なんなんだよ?こんな目に合わせた張本人とか、封印とか何のことだ?!意味わかんねぇ!」
カイエルのいう通りで、いろいろな事が起こりすぎてセレスティアも状況の整理ができなかった。
「ま、順を追って説明したほうがいいだろうからね。その前に、立っているのもなんだから皆、席に着いてくれるかな?お茶でも用意してくるよ。」
そう言って、ユージィンはこの場を離れた。
セレスティアは、窓から見える闇夜に浮かぶ月を見て、まだまだ夜は続くのだと、これからの聞くであろう未知の話に、知りたいという気持ちと同時に何とも言えない胸のざわめきを感じるのであった。
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