31:カイエルとイシュタル~後編~

1/1
前へ
/233ページ
次へ

31:カイエルとイシュタル~後編~

 「カイエルは、『竜の祖』と呼ばれる竜の始祖とも言われている竜なんだよ。」  「え・・・『竜の祖』って言い伝えにある確か神獣とも言われている竜のことなんじゃ・・・」  フェリス王国だけでなく、アルス・アーツ大陸にまつわる『竜の祖』とは、あらゆる竜の起源とも言われ、6匹の神獣として伝えられている竜のことであった。  セレスティアは、まさかそんな伝承で聞いたような存在が自分のパートナーだとは夢にも思わず、信じられないといった様子であった。  「そうだね、しかもここには、その神獣が2人もいる。」  「あ!そっか、イシュタルさんも!」  「うふふ」  「?」  カイエルは何のことだかわかってなかった。  「そう私達は『竜の祖』と呼ばれる起源の竜であったわ。もう数千年前の話だけどね。だから、飛竜の形態をとることは簡単なことなのよ。」  「数千年前・・・・」  数千年生きている、ということはセレスティアは、この二人の見た目年齢を信じちゃいけないのだなと思った。  「ざっくりいうとね、封印って言うくらいだから、セレスティアは察しているとは思うけど、カイエルは大昔にあることをやらかしていてね。それが原因でいろいろと封印されているんだよ。」  「・・・あーなんだかわかる気がするわ。」  確かにざっくりすぎるな、とは思ったが、カイエルがやらかした、ということには妙に納得したセレスティアであった。  「な、なに納得してるんだよ!」  だが、カイエルは納得できないようであった。  「封印をしたのは、私達兄弟なの。カイエルは末っ子になるのよ。」  「もしかして、伝承にある6匹の竜って・・・全員兄弟なんですか?」  「えぇ、私は上から3番目でね。上に姉と兄、下に弟が三人いるのよ。」   まさか、伝承にある竜本人から話を聞けるとは思わなかったので、冷静な彼女には珍しく、セレスティアはテンションが上がっていた。  「私達は兄弟ではあるけどね、それぞれ司る力の源が違うのよ。そこは見たままだし、伝えられてる通りだから割愛するわね。」  イシュタルで言うならば、赤は火を司り、カイエルは黒であることから闇を司っていた。他には、白は聖なる力を司り、青は水を司り、茶は土を司り、緑は風を司っていた。そして飛竜の色はそれぞれの竜から派生しているので、属性もそのまま受け継いでいたのだ。  「カイエルの封印は、他にもあるんですよね。」  セレスティアが神妙に問うと、ユージィンが答えた。  「カイエルの封印はあと二つ。その内の一つは先ほど言った記憶がなくなっていることだ。あとは力を失っていることだね。カイエルの本来の『竜の祖』としての力も封印されているから。」  そうか、あと二つもあるのか、とセレスティアは思ったが、そもそもの疑問の答えがわかっていないことに気付いた。   「ん?だけど何故、封印とやらは解けたの?」  「それは、カイエルがセレスティアのことを『番』だと認識したからだね。」  「え?」  「飛竜の時は本能的なもので、漠然と感じたんだろうけど、人化ができたということは、はっきりと、セレスティアが『番』だと認識したんだよ。」  「第一の封印解除はね、『番』を見つけることだったからよ。」  そういえば、カイエルは腹が立ったら、知らない間に人化したとか言っていた。ダンスを踊ってただけで封印を解除するなど、セレスティアは何とも居た堪れない心境であった。  「私達『竜』はね、魂の伴侶を探すのよ。その相手がどんな生物になっているかはわからないからね。人化はたまたまというか、『番』と同じ種族に形態を変えることができるのよ。」  「え?変幻自在みたいな?」  「そうね、ただし『番』だと認識したらね。だって竜のままだと交尾ができないでしょ?」  セレスティアは想像もしていなかった言葉を投げかけられて、顔は真っ赤に染まっていた。  「そっか、俺、お前と同じ種族になれてるから、交尾ができるんだな!」  カイエルは先ほどまでの、不貞腐れた態度から一変、急にパアァと顔が明るい表情に変わっていた。  「こ、交尾って・・!」  恋人など作る気がさらさらなかったセレスティアにしてみれば、あらゆる段階をすっ飛ばして、いきなり交尾の話をされるとは思わなかったので、考えがまとまらなかった。   「ん?でも、ディーンから聞いた話では、カイエルが人にでもなったら、結婚考えてもいいって、セレスティアが言ってたって聞いてるよ。僕はてっきり相思相愛なんだと思ってたんだけど?」  (叔父様、なんでこのタイミングでそれ言うのよ!兄さまのばかーーー)  「セレスティア!!」  カイエルはユージィンの言葉を聞いて、喜び勇んでセレスティアを抱きしめようとしたが、  「だめーーーー!!」  カイエルは顔面をセレスティアの伸ばした手で抑え込まれ、カイエルが思い描いていたハグは叶わなかった。  「な、なんでだよ!お望み通り俺も人化できたじゃねぇか!」  「そ、それは、その私はあくまで飛竜のカイエルとって意味だから、いきなり人化したからって言われても・・・」  セレスティアにしては珍しくしどろもどろになっていた。    「だから、俺じゃねぇか!」  「わかってるけど、そう簡単に割り切れないの!」  そこで、ギャーギャーと二人は言い合いになっていたのだが、その様子を見ていたユージィンとイシュタルは、  「まだ封印は残ってるんだけど、この二人大丈夫かしら?」  と、イシュタルは心配そうに見ていたが、  「ふふ、まぁ大丈夫だと思うよ。まぁもちろん今すぐって訳にはいかないけどね。焦ることはないさ。」  セレスティアはいつもは人に対して淡々とした対応だったのだが、カイエルには、珍しく感情がむき出しになっていることに、ユージィンは面白そうに見ていた。セレスティア自信はその事に気付いてはいなかったけれども。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

289人が本棚に入れています
本棚に追加