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 *  虫の駆除は比較的簡単だ。特に訓練と経験を積んだ上級駆除士なら、一般的な昆虫を仕留めるのに苦労はしない。希少種は見つけるのに一苦労、その研究が進んでいないせいで行動予測がしにくくて一苦労と、簡単とは言い難いが、よく知られた虫なら駆除自体はできる。  難しいのは滑らかな円のような形にすることだ。  突然変異の大型昆虫が出現した当初は普通に破壊型駆除を行っていたが、そういった昆虫の多くが体内に毒を持ち、死後もなおその毒性を保つことがわかってからは、駆除方法も変化した。昆虫の体内に弾を打ち込み、そこから破壊するのではなく、そこから水分と空気を奪い、凝縮していく形になっていった。弾を撃ち込む場所によって凝縮が開始される位置が変わるわけで、そうなると当然ながら完成する玉の形も変わる。昆虫の体内生成を理解していれば最終的な玉の形はコントロールできるが、知識と経験、それから腕がないとコントロールは難しい。いびつな形の虫玉を磨いて球体にして売るのも流行っているが、天然の完全な球体は当然ながら滅多に出ない。  三日後に店に行くと、男はニコリと笑って金を見せた。万札が何枚も重なっていて、マモルはそれを突きつけられて戸惑った。 「今回の報酬だよ」  男はマモルに金を押し付けると、ビールをグラスに注ぎ、乾杯を求めた。  マモルは金を数え、眉を寄せた。男はマモルがグラスを取らないので、カウンターに置き、一人で勝手に乾杯して飲んだ。金は十万あった。 「二千じゃなかったのか」  マモルが言うと、男はスツールごと回転させてマモルを振り返り、陽気に笑った。 「腕のいい営業マンはいいものを高く売る。僕と専属契約を結ばないか? 週に一度、虫玉を持ってくるだけでいい。君に品質のことは言わないよ。必ず高価値のものを持ってくるに違いないから」  マモルは納得がいかないまま、金をポケットに押し込んだ。ヤバイ金という気がして落ち着かないが、ここは繋いでいかないといけない。小さな不安をビールと一緒に飲み込む。 「新しいの見せて」  子どもが菓子をねだるように男は言い、マモルは黙って布に包まれた玉を出した。二千円程度だと思っていたから、もうちょっと金になるものも穫れると証明したくて、今回は希少種ではないがそう一般的でもない種類を揃えてきた。 「わお、これはすごい」  男はやはり子どものように興奮してルーペで虫玉を見つめた。 「さすが伊達君だな。こんなきれいなニジイロコガネは見たことがないよ。こっちもすごい。本物のゴールドよりきれいな金色だ。透明感といい、中の宇宙観といい、なんでこんなものが作れるんだろう。君は天才だな」  興奮して言う男の横で、マモルはもう一度金を出して確かめた。 「これ、札の種類を間違ってるってオチじゃないよな? 偽札でもなく?」 「あはは、伊達君は相変わらずおもしろいよ」  バンと背中を叩かれ、マモルは飲みかけていたビールを吹き出しそうになった。それを見て男はまた笑う。今日は前回にも増して機嫌がいい。  男は興奮を鎮めるようにビールをもう一度飲むと、真面目な顔になってマモルを見た。 「専属契約を結ばないか? 君がICCのスパイだとしても許せちゃうレベルの腕の良さだ」  マモルはゴクリと唾を飲んだ。「何、言ってんだ」 「商売なんて、お互いの補間をして儲けるもんだ。僕は美しい虫玉を手に入れ、君は虫玉の流通経路を追う。それに何の問題があるって言うんだ?」  マモルは思わず席を立ちかけた。心臓がバクバクと鳴る。こいつは何だ。俺のことは何でも知ってて、その上で手を組もうと言ってくる。危険だ。今すぐ離れたほうがいい。 「待って、怯えなくていい」  男はマモルの腕を掴んだ。マモルは思わずそれを振りほどく。男の腕力は思ったとおり、マモルにはまったく及ばなかった。逃げられると確信してドアノブに手をかけたが、その瞬間に背中に衝撃を受けて崩れ落ちた。  靴音がして男が近づき、上から覗き込んでニコリと笑った。 「話だけでも聞きなよ」
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