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 *  ICCの館内通達にマモルの写真が掲載されて、ケイはそのメールニュースに添付されたマモルの写真をじっと見つめた。写真はマモルが班員であるアルトを失い、状況説明に会議出席したときのものらしく、暗い表情がなんとも情けない顔に見せていた。  それが今のICCのマモルへの評価だった。  伊達マモルがクビになって三ヶ月が過ぎ、ハンターになったという噂が通り、その真偽のほどはわからないが、とにかく元駆除士である伊達マモルを捕獲した者には特別ボーナスを出すという通達が出された。  こうなるとはな。  ケイは意外な進展に驚いていた。  ICCがマモルを裏で支援するという条件でケイはこの計画にGOを出したつもりだったし、マモルだってそのはずだ。だがICCは違っていたようで、表向きは完全に伊達マモルを敵視した態勢を取るつもりのようだった。のらりくらりしていればいいものを、そんな精神力のある幹部がいなかったようだ。  そもそも、マモルを工作員に仕立てたのは副長の狸親父だし、関係者はごくわずか。優秀だった駆除士が転向したら大きな敵になることは誰にだって明白で、わかりやすいが故に怯える気持ちが育ちやすい。信じていたのに許せない、もしくはやはりあいつも人の子だったかという落胆が怒りに変わる空気もあって、マモルを早急に捕えたいという現場の意向が反映された形になっていた。それを副長は黙認している。ケイも裏で抗議してみたが、ここで荒立ててバレたら本末転倒だろうと言われて仕方なく引いた。  もしかしたら自分もマモルも罠にかかったんじゃないだろうかとケイは思った。ICCの上層部が虫玉の流通に一枚噛んでいるというのは想定される仮説だった。だからこそ、ケイは慎重に今回の話を受けるかどうか吟味したつもりだった。自分もマモルも虫玉の流通に関与したことがない。マモルはそれを都市伝説のようなものだと思っており、ケイは情報は得ていたが誘われたことがなかった。そんな二人をICCが煙たがっている可能性は無いとは言えない。もし組織的な汚染が広がっているとすれば、虫玉調査と言ってマモルをクビにし、その管理官であるケイを左遷、更迭することは組織の利益につながる。そうであってほしくはないが。  ケイは通達をじっと見つめながら、マモルが佐伯ミキを通して伝えてきた報告を思い返した。  マモルは仲介人のリベルと一緒に行動しており、一度は取引現場まで行くことができたようだった。が、その場では代理人の鑑定士がいて鑑定した後、追加指示を受けただけに留まり、マモル自身も代理人について調査をかけることも叶わなかったと聞いている。  それでもマモルは代理人についての可能な限りの記憶を伝え、適合する人物がいないか調べてくれと言ってきており、ケイは情報を出す相手を厳選して調査をかけている。マモルは最近、多少焦っているようで、早くなにがしかの結果を出したいと動いていた。既に解雇通告されてから三ヶ月以上が過ぎており、マモルは調査のためとはいえ、違法である駆除目的以外の虫玉作りに強いストレスを感じているらしかった。  ケイは額に手を当て、マモルが一人に戻ったときに苦しんでいる姿を想像してしまい、ため息をついた。悪いがもうちょっと待ってくれ。  チャットの新着が入り、ケイはそのスレッドに入った。カナからだった。 「今日、演習林に行く。ここ数日、毎日誰かが忍び込んでるみたいなの。伊達さんだって谷井さんは言ってる。伊達さんのお気に入りスポットがあるんだって」 「池の横だな。蚊も多いから気をつけろ。伊達を見つけたらぜひ知らせてくれ」  そう答えてケイは深く息をついた。  ダイトも優秀な駆除士であり、チームリーダーだ。マモルの動きは手に取るようにわかるだろう。  この危機をマモルに伝える必要がある。  ケイはカナとの電話を切った後、額を押さえつつ携帯端末からJIPAのミキを呼び出した。  ミキに事情を伝え、マモルに警告を出しておくよう命じて、ケイはもう一度息をついた。もう一つぐらいセイフティネットを作っておくべきだろう。例えばマモルがダイトに捕まった場合、こっちで処理できるように策を練らなければならない。これまでは副長がついているのだからと安心していたが、どうやら雲行きも怪しく、マモルが切られかねない空気が漂っていた。  マモルとは必ず駆除士に戻すと約束したのだ。ケイは気持ちを引き締めた。  憂鬱になっている場合ではない。マモル密偵をしているのだということを認めさせる必要がある。ケイはマモルの送ってきた報告書のデータをコピーし、上層部には必ず他にも味方になってくれる人間もいるに違いないと思った。
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