1/7
前へ
/94ページ
次へ

 演習林の調査の事前連絡があって、マモルはしばらくそこに近づくのはやめることにした。そうなると、別の捕獲場所に行く頻度が高くなる。虫によっては生育域が限られているものも多いので、安全な狩場は貴重だった。特にエリアが限られている場合は、他のハンターもその狩場を目指すことになる。  発光する虫玉がオーダーに上がってきて、マモルはいくつかの候補を考えた。うまくやればホタル類もできるだろうし、ある種の蛾も鱗粉が光る。発光の仕組みによっては紫外線を溜めるタイプでもいけそうだった。  どれも希少種であることに変わりはなく、リベルが言うほどには簡単には手に入らない。  ホタルなら見たいとリベルが言い、マモルは見つかるかどうかもわからないし、夜は危険だから連れて行きたくないと言ったら、危険だからこそ連れて行って見張りをさせたらどう?と言われた。  最初は断っていたマモルも、リベルがしつこいので仕方なく折れた。面倒は見ないつもりだったが、リベルを失うと流通経路から再び離れてしまうので、やっぱり見捨てるのは難しい。ホタルが見つからなくても、適当にそこらの虫を玉にしてみせて、満足してもらおうとマモルは自分を納得させた。  リベルがジープを用意し、マモルが運転した。ホタルの生息地は限られていて、たいていは人が入らない山林の小川や池の近くになる。その『人が入らない』という条件を満たすのにはある種の危険がつきまとう。  悪路や厳しい崖なんてものならまだ良くて、そういった場所は観光化されたり保護指定されて、監視カメラやパトドローンが警備している。もっと人が入らない場所へ違法ハンターは行く必要があり、そこには危険生物がいるために誰も近寄らないというところが多かった。  その夜も、途中でマモルたちの車は、突然フロントガラスに衝撃を受けた。  バン!という音とともに当たってきたのは、両手を広げたぐらいある巨大な蛾だった。それは続いてババババと連射されたように車に体当たりしてきて、マモルはアクセルを踏み込んだ。抜けられるなら抜き去りたい。が、前から無数の黒い影が襲ってくるのを見て、ブレーキを踏んだ。前が見えない。 「わぁ!」  助手席のリベルはガラスで守られているにも関わらず、両手で蛾を払い除けようと振り回した。 「群れがヘッドライドに刺激されてきたんだ。ガラスを破るほどの強さはない」  マモルはライトの光を消し、そのまま夜間の林道を走るのは危険なため、車も停車させた。バチバチとまだ外では蛾が車体に体当たりしてきていたが、数分すると収まり、遠くで夜行性の鳥の鳴き声が聞こえるぐらいに静まった。 「あんまり停まってると、それもヤバいからな」  マモルは再びライトをつけ、アクセルを踏み込んだ。  車は車体に当たって死んだり落ちたりしている大量の蛾を乗り越え、林道をガタゴト走り出す。すでにもう道なき道のため、GPSだけが頼りだった。 「この辺でヤバいのは、あの蛾じゃなくて、水辺にいる方なんだ。もうすぐ池に出るけど、不用意に水に近寄るなよ。ヒルもいればミズカマキリもいる」  ガタゴト走りながら、もう何度目かの注意をすると、リベルはさっきの蛾のショックから立ち直れないままうなずいた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加