9人が本棚に入れています
本棚に追加
*
ポイント7という店は、いわゆる夜の歓楽街の中心近くにある店だった。すぐ近くに巨大なシアターハウスがあり、そこでは男女様々な踊り子が裸に限りなく近い格好で踊っている。通りを挟んだ向かいにはカジノハウスがあり、噴水が一晩中、七色に光っている。人々の欲が正直に出る場所でもあり、誰もが感情豊かに生きている。それが喜であれ、怒であれ。
そんな中では少しだけ照明が暗い店、それがポイント7だった。周囲の店とは比較にならないぐらい小さく、店内もカウンター席があるだけで、テーブルはない。まるでこの店だけが再開発に乗り遅れ、何世紀も取り残されているように見えた。
マモルは意識を再び失っている女を抱え、店に入った。
「医者がいるって聞いた。アシナガバチ亜種のハチ毒にやられてる。対処できるのはいるか?」
カウンターの奥にいたバーテンに言うと、常連客と話し込んでいたらしい女は顔を上げてマモルの荷物を見た。
「ハルカ!」
彼女は声を上げて驚き、常連に顔を向けた。目で会話が一瞬交わされ、常連客がダーツの的がかかったバックヤードへの扉を押し開けた。バーテンの女が走ってきてマモルの背を押して中に入れる。背後についてきていたリベルも入った。
「こっちに」
大きなテーブルにあった荷物や小物を全部空き箱に流し込んだ客の男が言い、奥でトランプをしていたらしい人物たちに声をかける。
「ボス、ハルカが大変です。ドク、ハチ毒だって言ってる」
向こうのテーブルにいた重鎮たちが立ち上がり、こっちにやってくる。マモルは促されるまま、大きなテーブルの方に女を寝かせた。そして近づいてきた老年の男と女を見る。どっちがボスで、どっちがドクだ?
「白峰の池で別の虫の採集をしているときに、アシナガバチの巣を何かで刺激してしまったみたいだ。模様が白っぽかったから、ギンアシナガ系のだと思うけど確定はしてない。ここに虫毒の検査キットはある?」
「それよりおまえは誰だ」
二人のガタイのいい若いのが睨む。リベルが怯えて手を上げた。
「通りすがりの善意の第三者ですよ」
検査キットはない、と銀髪の女の方が言った。黒髪の男はテーブルの女に駆け寄り、名前を呼んだ。
「一応、傷は軽く洗ってウェットシートでできるだけ拭いた。市販の抗ヒスタミン薬も塗ってる。ステロイドと抗生物質はある?」
マモルはドクらしい女に聞いた。
「あるよ」
「服の下までは見てないけど、革だし大丈夫だと思う。ラッキーだった。あと、もう一人運んできてるが、残念ながらそっちは死んでる」
「ナベ、その男について行って確かめろ」
ドクと呼ばれた女が言い、ナベと言われた用心棒っぽい若いのがマモルを見た。マモルはジープに戻り、トランクの男を見せた。ナベはその男を『コースケ』と呼んだ。そしてコースケを店の中の奥へと運んだ。
「チャンスだ。逃げよう」
リベルが言い、マモルは店を見た。
やることはやったし、身元も判明したようだから確かに用は済んだ。リベルがそわそわしているから、マモルも仕方なくジープに乗る。
が、リベルが助手席に入ろうとドアを開いたとき、背後から「止まれ」と低い声が言った。さっきとは別の男が銃を構えている。
「後ろ、武器持ってる?」
相手に背を向けたまま停止しているリベルがマモルに聞き、マモルはうなずいた。リベルはため息をつく。
「状況説明を聞きたい。中に戻れ」
相手が言い、マモルはリベルが肩をすくめるのを見た。
最初のコメントを投稿しよう!