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池での状況を説明すると、ボスは何を考えているのか、じっとマモルとリベルを見比べた。二人はボスと用心棒二人を前に、何かの罰みたいに立たされている。ボスは椅子に座り、用心棒たちはその横に控えて立っていた。その後ろにドア。
ハルカという患者は奥の部屋に運ばれて、銀髪のドクが様子を見ている気配が感じられた。ボスはハルカは自分の娘だと言った。
「おまえたちは昆虫ハンターか?」
「はい」
マモルは答えた。リベルは横で黙っているだけだ。
「コースケを殺したでかい虫はどうなった?」
「池に逃げました」
「コースケと一緒にいた奴らも逃げたんだな?」
ボスが殺意を目に宿して言い、マモルはリベルをちらりと見た。リベルが肩をすくめてマモルを見返す。代理返答はしてくれないらしい。
「近くには見当たりませんでした」
「逃げたってことだな」
「わかりません。その場には見当たりませんでした」
「おまえたちが殺したんじゃないんだな? 虫玉を横取りしようとしたとも考えられる」
マモルは救いを求めてリベルを見た。が、リベルは目も合わせない。
「俺たちがそこに行ったときには誰かがいて、衝突したくなかったので立ち去ろうとしました。でも叫び声がしたから駆けつけたんです。もし横取りしようと思ってるなら、怪我人も遺体も放っておいた。そうでしょう?」
「うちの関係者だとわかったから、金になると思ったんじゃないのか? どうしてここに運んだ?」
「お嬢さんがそう言ったからです。ポイント7にって」
「助けてくれたら金を払うって?」
マモルは小さくため息をついた。リベルが横で笑った気がした。善意なんてのはこの世にないというわけか。
「金の話はしてません。ただ病院に運ぶと話してたら、ここにと本人が言ったから連れてきた。それで盗人扱いされるんなら、放っておけばよかった」
そう言い終わる前に用心棒の一人がいきり立ち、マモルに一発殴りかかった。マモルも防御しようとしたが、間に合わずに斜め後ろにひっくり返る。リベルが飛び退き、さらに用心棒がマモルの腹を蹴飛ばした。そこでボスの制止が入る。
マモルは倒れたまま咳き込み、逃げ道はないのかと部屋を伺った。が、どうやら出入り口は用心棒の後ろのドアしかないらしい。ただ、こういう店には裏口だってあるはずだった。奥にあるのかもしれない。
「この虫玉はおまえたちが売るつもりだったのか?」
ボスがリベルに聞いた。マモルはホッとした。もうここでくたばったフリでもしておこう。疲れたし、眠い。たぶんハチ毒が少し入ったから、体も熱かった。
「そうです、黒烏会では流通経路は持ってませんよね。そこに進出しようと思ったんなら、僕たちと知り合えたのはラッキーですよ。そこで寝転んでる無鉄砲な男は、腕のいいハンターです。僕らと組めば、既存の小さい経路を一気にまとめて、儲かる話をすすめることができます」
リベルの営業トークを聞きながら、マモルはすげぇなと思った。
怯えたふりをしていたくせに、実のところ全く怖いなんて思ってない。この店に来ることにしたのも、きっと儲け話ができると思って来たに違いない。
マモルはどうやらボスがリベルの話に乗りそうな雰囲気なので、良かったと目を閉じた。
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