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目が覚めると、天井に白く明るいペンダントライトが見えた。マモルは床に布を敷いたところに寝かされており、うめきながら体を起こすと、上半身が裸になっていた。上に古びた濡れタオルが半乾きになって乗せられており、寝てしまったのかと頭を掻いた。
リベルを探そうと立ち上がると、頭がくらっとした。
「大丈夫か?」
銀髪のドクターが作業を中断してやってきた。マモルが寝かされていたのは奥の部屋らしく、すぐ横にはハルカのベッド代わりになっていたテーブルがあった。そこにはもう患者はいなかった。
「大丈夫。ここにいた人は?」
「容態が安定したから、さっき屋敷のベッドに移した。おまえもハチ毒にやられてたぞ。どうして言わなかった?」
マモルはテーブルに手をついて、その腕に赤い腫れがまだ残っているのを見た。首や顔も触ってみると、いくつかしこりのようなものが感じられた。
「そんなに刺されてないと思ってた。水で洗ったし薬も塗ったから大丈夫かと。俺と一緒にいた奴は?」
「知らん。応急手当はできてたが、そのまま放置しておいていいわけじゃない。それぐらいの知識はあるんだろう? 何か食うか? 半日寝てた」
「便所と何か服を借りたい」
「いいぞ。便所は店のを使え。服は出しておく。店で何か食うものを用意させるから食っていけ。店のおごりだ」
マモルはうなずき、リベルがボスの逆鱗に触れて山に埋められたり海に沈められたりしてないといいがと思った。
店には入ってきたときと同じく、女のバーテンと常連客がいた。客ではなくて、本当は店の従業員なのかもしれなかった。例えばこの店を訪れた客の見定めをする役割とか。
マモルは二人にハルカを助けてくれてありがとうと声をかけられ、ペコリと頭を下げた。便所を借り、小さい洗面台で手と顔を洗い、腕も水で冷やした。
バーに戻ると、ドクが古びた服を見繕って出した。派手なロゴの入ったTシャツを受け取り、マモルはそれを着た。何もないよりマシだ。
そしてバーテンが特製ホットドッグを出してくれた。男が羨ましがって欲しがったが、バーテンもドクも追い払っていた。何か飲むかと言われたので、アルコールが入ってないものをと言ったら、炭酸レモン水が出てきた。
食べて飲むと生き返る気がした。まだ体は本調子ではなかったが、気分は上がる。
「ハンターなんだって?」
男が言い、バーテンとドクもマモルの話を聞きたがった。マモルは早く店を出たかったが、少しならと思って池での話をした。
その途中でボスが戻ってきた。マモルは逃げ出したかったが、店の出入り口はボスが入ってきたところだけで、逃げる道はない。
「気がついたか」
ボスは不機嫌そうなしかめっ面のまま、バーテンに目配せした。
バーテンはカウンターの下から封筒を取り出して、マモルのホットドッグの皿の横に置いた。
「娘を助けてくれた礼だ。受け取れ。コースケは残念だったが、素人が手を出した罰だろう。遺体だけでも戻ってきたら、家族の納得もいく。わざわざ手間をかけてもらって悪かったな」
「応急処置も的確だったから、容態も落ち着いてる」
ドクが言い、マモルは戸惑った。この金は受け取っていいものだろうか? 断れば角が立つだろうし、どうしたものか。
「おまえのパートナーとは話がついた。逃げた奴らも近いうちに捕まえて吐かせる。そのひどい面がマシになったら、また店に顔を出せ。仕事をやる」
ボスがそう言ってマモルの腫れた顔をざらざらの手で軽く叩き、奥へと入っていった。用心棒たちもマモルをちらっと睨んだが、殺意はなく立ち去る。
マモルは封筒を見つめ、それからそっと中を見た。
「百万あるよ」
バーテンが楽しそうに言い、マモルはうなずいた。
「男前になったらまたおいでよ。特製ホットドッグ、食わせてやるから」
「服も返しに来い」
バーテンとドクが言い、マモルはどうやらこことは関係ができてしまったようだと理解した。
仕方なく封筒を受け取り、マモルはリベルの店に向かった。
店には誰もおらず、マモルはソファに寝転ぶようにして息をついた。
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