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 *  dragonflyで傷だらけのマモルを見て、リベルは面白そうに笑った。 「昨日、昆虫館で希少種、盗んできたらしいじゃん。やるね、噂になってる。大悪党だよ」  マモルは黙ってリベルに動画を見せた。 「うわ、すごいなぁコレ。で、実物は?」 「誰も信用できねぇから、自分で保管してる」 「仲介者ぐらいは信じてよ」  そう言いながらもリベルは特に気分を害したふうでもなかった。 「退路を絶ってきたね。ICCは君を指名手配したみたいだし、おかげで君はこっちでハクがついた」 「黒烏会の方は話が進んでるんだろうな。これで何の成果もないってなると、俺はあんたと組むのもやめるからな」 「もう、殺伐としちゃって。まぁ、それぐらいでやっとハングリーなハンターって感じが出ていいけどね。今までの伊達君は優等生すぎたから」  リベルはそう言ってまたビールを出した。  マモルは飲みたい気分でもなかったが、飲む。いや、飲みたい気分だったと気づく。もう何でもいい。 「黒烏会はいい感じだよ。伊達君の指導はとてもいいって評判。特にあの向こう見ずなお嬢さんが伊達君を気に入ってるみたいで、婿候補にしてるらしいよ」 「それは断った」 「ボスがそんなの聞くわけないじゃん。ガン無視で伊達君をかわいがってるよ」 「ちょっと待て。それは何とかしろよ。仕事でつきあってるだけで、俺は黒烏会に入りたいわけじゃない」 「展示会までは、のらりくらりと頑張りなよ。その後は口添えしてやるから。ね、今は媚売って、恩も売って、展示会で大物と名刺交換しようよ。それが僕らの目的なんだから」  リベルの言っていることはわかる。マモルは渋々うなずいた。 「そうそう、ボスのおかげで戦闘ショーの登録もできたんだよ。ボスは君に賭けるって言ってたから頑張ってね」 「賭けるって何だ」 「賭けるんだよ。ギャンブル。戦士が五人、今回は特別枠で君が入って六人。それぞれ倒した生き物の危険度に応じた点数が入るから、三回のチャンスで一番高い点を取った者が優勝」  マモルはカウンターに肘をついた。 「一番点数が低いので何だ?」 「オオカマキリS、五点」 「Sって?」 「スモール。オオカマキリだとMが十点、Lは二十点」 「スモールで実サイズは?」 「五百ミリまで。Mが千ミリ、Lは二千ミリ」 「そんなでかいの用意してんのか? ステージエリアは?」 「三十メートル、十五メートル」 「途中でギブアップは?」 「できるけど…歴代の戦士にしたやつはいない」 「歴代って何回やって、何人死んでるんだ?」 「まだ次で三回目。初開催のときは、優勝した人以外、死んじゃったらしいよ。デス・ゲームだった。だからルール改正して二回目からはドクターストップを入れた。それでも二人ぐらい召されたかな」 「6/10死んでるってことだな。過半数だぞ、わかってんのか?」 「でも前回は、2/5だよ。しかも一人は、賭けたのにまともな勝負をしなかったからって、スポンサーに殺されたんだ。実質、ゲームでは…」 「使う道具に制限は?」 「ないよ。しかも、その場にある新商品の武器や道具の展示物は何でも使っていい。これは戦士だけに与えられたお試しチャンスなんだよ」 「信用できるメーカーを調べておいてくれよな」 「大丈夫だよ。ICCの横流し品を扱ってる業者もいるし、その上限解除をしてるのも売ってるから」  マモルはうなずいた。ショックを受ける元気もない。 「薬剤は? それも横流しが?」 「うん、あるし、それより凄い威力のヤツもある。人に当たったら死ぬやつ。ICCはその辺、厳しいから抑えてるでしょ」 「俺らは軍人じゃないからな。そんなすごいのは持てなかった」 「そうそう、軍で開発してるやつとかあるよ。海外のやつとか。展示会は意外と楽しいんだよ」 「死ななきゃな」  マモルが言うと、リベルは笑ってうなずいた。 「そうそう、だから頑張って」  軽く言うリベルを睨み、マモルは唇を噛んだ。  こういう点の取り合いみたいなのは、ミドリが得意そうなんだけどな。ゲームだと思うと、いろいろ複雑な気分になる。武器の見本市も兼ねていて、ギャンブル場でもあり、そしてそれぞれのネットワークの絡み合いにもなる場所。確かに人脈は作れそうだが、ICCの負の側面も目の当たりにしそうだった。 「黒烏会が、戦闘ショーの練習用に場所も獲物も用意するって言ってたよ。ボスがもうノリノリで、ぜひ公開練習してほしいって。もう彼は優勝したつもりになってるから、頑張って」 「リベル」  マモルはさすがに苛立ちを隠せなかった。 「何?」 「そういうことは、俺に一言相談してから決めてくれ」 「相談したら嫌がるでしょ」 「わかってんじゃねぇか」 「うん。だから相談しない。伊達君、最終的には僕に感謝するって。それは確実」 「俺があんたを殺したくなる前に、そんな日がくるといいな」 「わぁ、怖い」  リベルが笑って言って、マモルは本気でぶん殴ってやろうかとちょっと考えた。
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