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 *  リベルへの苛立ちがアドレナリンになったのか、第二戦目は思ったよりも順調に進んだ。サソリとヘビの毒シリーズは、マモルがそれぞれの特性を踏まえ、互いに牽制させることで短時間での駆除につながった。十体入れた毒蛾の鱗粉はエリアいっぱいに広がったものの、高性能の防毒マスクと、防護服のあらゆる隙間を補助テープでふさぐというアナログな方法で切り抜けた。おかげで服の中は高温になりそれが原因で死にそうになった。  毒蛾の虫玉は濁った紫と灰色で、決して美しいとは言えなかったが、その毒々しさを好むファンもいるようだった。戦闘ショーで生まれた玉も即売されるらしい。  最終戦はリベルとは相談しなかった。ムカつくし、互いに謝る気もなかったからだ。  マモルは瀕死状態でドクターストップのかかった第一戦士が運ばれていくのを見送り、それに興奮してヨダレを垂らしている他の戦士を見た。全員ラリってんじゃないのか。マモルは恐怖心をそれで抑えているのだなと思った。  彼らに説教をしたかったが、聞く耳がなかった。  俺だって怖い。さっきのサソリだって、聞いたことも見たこともない種類だったから、どういう動きをするかわからなかった。ヘビだってそうだ。想定より素早いタイプだったら俺も死んでた。  だからこそ、それらのもつ特徴と習性を見極めないといけない。どうしてあのサソリの毒針が二本あったのか。どうしてあのヘビの戦闘体勢があの形なのか。毒蛾が毒を持つ目的は何なのか。それを知ることによって対応できることが増える。  マモルは最終戦をどうするか頭を捻った。  現時点で残りが五人で、マモルは二位。順番でいうと二番目の戦士がトップだった。全体には接戦で盛り上がっている。  先に獲物を選択した第二戦士は、これまでの二回の戦いで体力も消耗しつつあるのに、再び残っていた大型を選んでいた。次の三番目の戦士も、大量点で逆転を狙っているのか、大型を入れている。  マモルが選ぶ段階で、大型の敵は残り二体だった。  マモルより後に選ぶライバルがそれを選択するのを封じるために選ぶか、無理せず中型種で得点を稼ぐか。ただ、どちらにせよ、他の戦士に確実に勝つためには、楽に処理できる数を倒している場合ではなかった。  あまり戦いたくないオオカマキリや、カミキリムシ数体を選ぶ。でないと残るのはススメバチの群れや、軍隊アリの大群というトラウマになりそうな奴らになる。それでも他の戦士が無茶なぐらいに獲物を選んでいるので、せめて基礎点だけでも合わせていくと、マモルも他の小型種をいくつか入れなくてはならず、それに対抗する他の戦士も、確実に死にそうな獲物選択になっていった。  自分で選んだにも関わらず、マモルは後悔しまくっていた。  どうシミュレーションしても、腕の一本や二本は失う覚悟がいる。場所が悪ければ首をちょんと切られて終わりだ。肉食獣の中に放り込まれるうさぎの気分だ。  マモルはボスにもらった薬を飲むかどうかも迷った。それを飲めばハイテンションで戦えるかもしれないが、冷静な判断はできなくなるに違いない。だからといって飲まなくても冷静な判断なんてできないかもしれない。  待機エリアで第二戦士が吠えながら死闘を繰り広げている音を聞きながら、マモルは気付けのビールを一杯煽った。これぐらいなら酔わない。  アリーナのDJの声が真剣味を増し、叫び声が混じり、マモルは息をついた。小さなモニターが待機エリアにもあったが、それを見なくてもわかる。第二戦士はかなりの負傷をして、なお戦い続け、ドクターストップは入らず、スクリーン前はギャンブル客で盛り上がる。  俺が入ったからだとマモルは思った。  俺が戦士たちを焚き付け、実力以上の戦いに挑ませ、俺が殺している。  それぞれの生き物には、それぞれの戦い方があり、組み合わせの相性だって俺は考えているが、あいつらはそんな知識を持ち合わせてない。だから前回までは力自慢が目一杯強い武器で戦えば、盛り上がって勝てた。  俺がバランスを崩した。  この戦闘ショーの生態バランスを。  マモルはそう思って強く後悔した。
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