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 *  医務室で手当を受け、痛み止めと抗生剤の点滴を受け終わる頃には、戦闘ショーの結果が出ていた。マモルは首一つ抜けた点数で優勝し、セレモニーのためにプール側のステージへと呼ばれた。  腹部にはガッチリテーピングテープが巻かれ、耳の上には白いガーゼがべったり貼られた。右目が半分押しつぶされ、視界がちょっと狭くなったほどだ。新しい服が用意されて、マモルはそのジャケットに袖を通した。  確かに、もう誰もホテルの使用人だとは思わないだろう。こんなに似合わない、そしてサイズの合わない服を着ているスタッフもいない。  黒烏会のボスをはじめ、マモルに賭けた人々がマモルを大歓迎した。体をベタベタ触られ、そして叩かれ、マモルは逃げるようにステージに上った。  よくわからないバッジの贈呈と、副賞の金額明細が入った封筒の受け取りが行われた。マモルはシャンパンを浴び、そしてジャカジャカと派手な明るい音楽が流れてくるのを聞いた。  ようやく解放されたマモルは、ステージを降りて目立たない場所を探した。写真を撮ってくれとか、さっきのは素晴らしかったと繰り返す人々から離れ、展示会場の端の花壇に腰掛けた。  もっと交流して、この主催者側と接点を持つ必要があるのはわかっていたが、そんな気力が沸かなかった。 「お部屋に案内しましょうか?」  ホテルスタッフが声をかけてきて、マモルは顔を上げた。  そういえば戦闘ショー優勝の副賞の一つに、このリゾートホテルのスイートルーム宿泊というのがあった。スタッフに案内されて最上階の部屋に入ると、テーブルにはシャンパンとフルーツの皿があり、キングベッドには高級そうなナイトガウンが畳んであった。  スタッフが一通りの部屋を案内した後出ていき、マモルはベッドに倒れ込んだ。目を閉じると、そのままベッドに沈み込んで寝てしまいそうだった。  戦闘ショーで体力を奪われたことは一因だったが、それ以上にマモルは深い虚しさに襲われていた。人と虫が殺し合いをし、それがショーになって賭けの対象になる。戦士はほとんど使い捨てで、虫や器具、薬剤の知識なんて持っていない。自分が入ることで戦いは激化し、客は喜んだが戦士の負担は倍増した。もし来年も繰り返されるとして、あるいはまた別の主催者が同じようなことを商売にするとして、マモルは自分が関わったことの罪を感じざるを得なかった。  体を起こし、マモルはソファーの方へ戻って、シャンパンを開いた。ぽんと軽い音が鳴り、マモルは横に置いてあったグラスにシャンパンを注いだ。淡いピンクっぽい色が爽やかに揺れる。  マモルはそれをグイと飲み干し、泣きたくなるのをぐっと抑えた。  シャンパンを半分ぐらい飲んで、マモルはソファに体を倒した。少し休んだら、気分も晴れるかもしれない。  そう思ってマモルは自分に眠ることを許した。
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