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何のために戦闘ショーに勝ったのか。それは主催者に近づけるチャンスが増すからだ。この展示会での重鎮たちと交流できるからだ。
マモルは始まった花火を見上げながらプールサイドを歩いた。
メインプールの中央には小島があり、そこには小さな滑り台が作られていた。そして裏には滝を模した岩場があり、起伏のあるメインプールは子どもたちや家族連れが喜びそうな造形だった。
一方、そこから小道を抜けて行くサブプールエリアは、芝生とヤシの木、そして楕円や豆型の大人しいプールがいくつかあり、そこからは海が見えて、プールサイドにあるバーも大人の雰囲気が醸し出されていた。
カクテルパーティはそのサブプールエリアで行われていた。
マモルはぶらぶらと芝生を歩き、大勢があちこちで談笑しているのを見た。花火に夢中になっている若い男女もいれば、何人かで固まってヒソヒソと商談でもしてそうなグループもある。あるいは、ここで知り合った相手と握手している人たちもいる。
その間をホテルスタッフがカクテルの入ったグラスを運び、テーブルにはスナックやオードブルが次々足されている。
「じゃぁまた後で」
リベルがさっさと自分の営業に出てしまい、マモルは困惑した。知った人もいないし、どうやって入り込めばいいのか。
それは杞憂に終わった。
「伊達さん」
横から声をかけられ、マモルは近づいてくる小太りな男を見た。さっきステージで会った関係者だ。確か、どこかの武器メーカーの社長だ。名前は忘れたが、その顔は覚えている。
「先程はありがとうございました。伊達さんに使っていただいたおかげで、注文が殺到しています」
マモルはそう言われて握手を求められ、応じた。
「実際に使ってみていかがでしたか? 改善点があれば何なりと。伊達モデルとして開発させていただきます」
マモルは首をひねった。
「どこで使ったヤツですか? メーカー覚えてなくて」
そう言うと社長は、それはごもっともという顔でうなずき、目を輝かせた。
「あの最後のオオカマキリを仕留めた大型銃です。良かったでしょう?」
「ああ」
マモルは嫌な感触を思い出し、顔をしかめた。
「引き金の遊びがありすぎて、撃つ時に違和感があった。スムーズに引けなくて、最後に引っかかりがあるから、あの距離だから良かったけど、もうちょっと距離があると外れる可能性があると思いました」
「なるほど!」
社長は強くうなずいた。
「あとは、反動が思ってたよりあったのと、セイフティが甘いから現場では持っていきにくいなと。戦闘ショーならいいですけど、普段は荒れた道とか、沼とか崖とか…そんなところにセイフティが甘いヤツは持っていきたくないです」
「すぐ使えるので逆にないほうが便利って声もあるんですが…」
「俺はないヤツは使いません。引き金も同じです。虫だと思って構えた後に、人間だと気づいたとして、指が止められることが大事です。反対に不意に撃つときも、最後にしっかり押し込めるのが正確なハントと、きれいな虫玉につながるんで。大切です」
「わかりました。改善します。貴重な意見、ありがとうございます。うちは薬剤も扱ってるんで、明日は是非ブースにも来てください。試射もできます」
「うちにも来て」
横から別の業者が声をかけた。
確かに戦闘ショーに出る意味も優勝する意味もあったとマモルは思った。マモルが相手を知らなくても、相手がマモルを知っており、マモルにPRしたいという業者が山程いた。マモルはブースの名前を書いたカードを何枚も受け取り、あちこちのコミュニティに連れ回された。
虫玉の売買業者にも会った。マモルがリベルと組んでいることも知られており、あんな若造じゃなくてベテランの自分と組もうと誘ってくるのもいた。
黒烏会の会長にも見つかり、自慢の戦士だと自分の息子のように言われた。
人と会うのに少し疲れ、マモルは少し人が減った海沿いの柵に寄った。花火が上がっていたときは大勢が立っていたが、今はオードブルとカクテルのテーブルに人が集まっている。プールに足を突っ込んで話している男女や、酔って歌っている壮年の男が拍手をもらっていた。
それに背を向け、マモルは暗い海を見た。星と月の光が波濤を白く輝かせている。
「何か飲まれませんか?」
隣にカクテル・グラスが差し出される。
マモルはホテルスタッフみたいな白いウエアを着た相手を見た。スタッフならトレイで運んでくるのに、そうではなく直接グラスを渡される。
酒は欲しくなかったが、マモルは思わず受け取った。
「安心して。ノンアルだから。ちょっと海を見に行く?」
相手が言い、マモルはそれは誘いではなくて、強制だなと思った。
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