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 *  迷路みたいな通路を案内されて、マモルはもし何かの都合で逃げたくなったときに自力で外に出られるだろうかと、ちょっと心配になった。  ホテルスタッフはスタスタと迷わず進み、そしてある部屋で止まった。 「こちらです」  リベルとマモルは顔を見合わせ、VIP用のラウンジらしき部屋の前に立った。扉はなく、中にすぐ入れるようになっている。 「どうぞ」  中にいた別のスタッフが二人に声をかけた。  入ると、また入り組んだ構造になっていて、本棚や軽食コーナーの奥にソファがいくつかあった。  そこに黒烏会のボスと、SPの二人、それからもう一人のボスっぽいのとSPっぽいのが二人いた。 「いいところに。今、とても興味深いお話を聞いたところよ」  もう一人のボスはジェンダーがよくわからなかった。男っぽい体で声もそうだが、メイクと髪、服は女性っぽかった。とはいえ、派手に着飾っているわけではない。体の大きな品の良い女性にも見えた。 「こんにちは伊達さん。今日のショーはとても良かったわ。私のことはご存知?」  握手を求められ、マモルは応じた。そして首を振る。 「すみません、まだこの世界に入って日が浅いので」 「そうよね。夏木ジュリと言います。元々はジュエリーを扱っていたんだけど、虫玉の魅力にやられちゃって、今はもう夢中なの。特にあなたみたいな腕のいいハンターはとっても魅力的」  手を重ねられ、マモルはペコリと頭を下げた。  紅茶でいいかしら、と答えを聞くつもりもない質問をされて、マモルはソファに座った。リベルは先に挨拶していたようで、マモルの横に座る。  どうやら黒烏会のボスは、夏木の悩みのタネだった、煩雑になりつつある管理作業や警備問題を片付ける提案をし、夏木もそれに喜んでいるらしいというのが、話を聞いているとわかってきた。  その手土産にリベルがマモルが昆虫館に侵入してまで作った虫玉を持ち込んでおり、夏木が感激してマモルにぜひ会いたいということになったらしい。  テーブルの上には、その虫玉がガラスの皿に四つ並べられている。  夏木はマモルを近くに座らせ、その体を触った。怪我はどうなのとか、筋肉を見せてと言いながら、彼女は(マモルは彼女だと思った)指を這わせてきた。 「専属契約してあげてもいいなと思ってるの」  マモルはそう言われ、ちらりとリベルと黒烏会のボスを見た。  リベルはニヤニヤ笑っているし、ボスに至っては目を反らした。ICCに戻すって話はどうなってるんだとマモルは思うが、おそらく目の前のチャンスに目がくらんでいるんだろう。リベルはマモルが何をしても面白がっているに過ぎない。  こいつらは頼れない。マモルはわかっていたことを再認識した。  黒烏会が夏木とパートナー契約する手土産に、表向きはマモルが作った希少虫玉を贈る形にして、夏木はマモルというハンターを手に入れる。  で、俺にメリットは。  マモルは必死で考えた。首筋を触る指には鳥肌が立つし、夏木はそれも含めて喜んでいる。 「つまりそれは…作れば全部買ってもらえるってことですか?」  マモルが聞くと、夏木は小さく首を傾げた。 「全部買ってもいいし、不自由ないぐらいの年間契約でもいいし。もちろん経費は別で。何なら家も用意してあげるけど」  マモルは戸惑いがちに首を傾げた。どう反応すればいいのだろう。 「ちょっと待ってください。リベル」  マモルは顎でリベルを呼んだ。それから黒烏会のボスの方も見る。 「ボスも」  用心棒のナベたちが怒りの目で睨んだが、ボスが二人をおさめてゆっくり立ち上がった。  パーティションにもなっている本棚の反対側に行き、マモルはゆっくりやってきた二人を見た。 「俺はあの人への手土産ですか」  二人は二人なりにうなずいた。 「懐に入れるんだよ。ラッキーじゃん」とリベル。 「人を撃てとは言われないだろう。ICCより金は入る」とボス。  マモルは二人を見つめ、それから息を吐いた。あんまり強く吐くと肋が痛むので、小さく吐く。 「わかった」  マモルが言うと、二人は嬉しそうに笑った。  マモルは元のソファ席に戻り、夏木を見た。 「詳しい契約内容を決めましょう」  そう言うと、マモルの後ろにいた二人も、夏木も喜んだ。
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