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 契約を正式に結ぶまでは時間が稼げる。それに契約書自体が何かの証拠にもなる可能性があると思って、マモルは用心しながら話を進めた。  夏木はマモルに触りまくったが、別に押し倒そうとか、SPを使って羽交い締めにしようとかはしなかった。マモルだってそうなったら悪いが必死で逃げる。芳月に教わったことを目一杯思い出して何とかするつもりだった。  リベルはマモルの代理人として継続しているらしく、契約は夏木とリベルの間でいろいろ決まっていった。マモルの処遇については三者で交渉したが、注文と経費のことぐらいしか関係がないように思えた。家とか何とかというのは、特別ボーナスという言葉で一括されたようだった。  意外と普通の契約内容だった。  マモルは契約書の素案ができて、リベルと夏木、黒烏会のボスが仮合意したのを見届け、部屋に戻って眠った。眠くてしょうがなかった。  翌朝、起きると、隣のベッドにリベルが寝ていた。夏木じゃなくて良かった。  部屋にあるコーヒーメーカーでコーヒーを作り、昨日のことをケイにどう報告したものかと思っていたら、リベルが起きてきた。 「おはよー、伊達君。僕にもコーヒーくれる?」  マモルはそう言われて、カップにコーヒーを注いだ。 「わーい。恋人らしさ満載だねぇ」  リベルは楽しそうに言ったが、マモルは無視してソファに座った。シャンパンは片付けられ、フルーツの皿もなくなり、今は焼き菓子のセットみたいなものがガラスの蓋付きの器に乗っていた。毎日こんなサービスがついてくるんだろうか。  マモルは自分の携帯端末を出して何気なく見た。特に誰からも連絡はない。 「なぁ、ここから怪しまれずに逃げられるかな。あの夏木って人に近いうちに襲われる気がする」  リベルが隣に座ったので、マモルは彼に聞いた。  リベルが笑うのはわかっていた。だからそれは放っておく。 「そうだね、例えば取り締りが入るとかかな。伊達君、通報しちゃえば?」  リベルはひとしきり笑った後、冗談めかして答えた。 「それで裏の奴らに一生追われるのは嫌だ」 「わがままだな。黒烏会のボスにICCに戻してやるって言われてたんだって? 僕に内緒でそんなことして。調子に乗るから、売られちゃうんだよ」 「調子には乗ってない。向こうが勝手に言ってきた」 「あ、そう」 「あんたも黒烏会も、いずれはあの夏木って人を足がかりにのし上がろうと思ってるわけだろう?」 「いや、僕はそんなこと全く」  リベルが言い、マモルは自分のコーヒーを飲んで無視した。 「適当な病気になるってのはどうかな。急に酷い腹痛で帰るっての。もう高速船でいいから、さっと帰りたい。あんたはこの部屋を満喫すりゃいいから」 「そうだね、船を降りた後は本当に倒れるしね」  リベルはいつものように楽しそうに言った。 「黒烏会のドクターいたよな。なんか適当な病名言ってもらって、さっさと帰りなさいって宣言してもらおう」  マモルは名案だと思った。どうせ肋骨だって折れてるかもしれないんだし、病院はいずれ行かなくちゃいけない。その間に夏木がマモルどころじゃなくなるってのが一番いいのだけど。 「あは、伊達君、見て」  リベルが彼の端末をマモルの方に向けた。  マモルは画面を見て、そしてそれを奪い取った。  そこには、昨日の戦闘ショーの一部がネットに上がっていて、また字幕がついていた。『戦闘のために作られた、殺されるための生命』『武器のPRのために必要のない大威力のものを使用している』とか書いてある。JIPAとは書いてないが、きっとJIPAの関係者だ。  バカじゃないのか。  マモルは唾を飲み込んだ。掲載時刻は今朝早く。つい一時間前だった。 「犯人探しで島は封鎖されるね。残念、伊達君」  リベルが言い、マモルは羽田たちはもう出ていったんだろうかと思った。
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