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四分半でナベは連絡してきた。全員をホテルに戻していい。ロビーには冷えた水もあるし、クーラーも効いている。ひとまずそこで待機しろ。逃げたら殺す、という定番の言葉は添えられていた。
マモルはそれをそのまま伝えた。逃げたら殺す、までを。
それでも売買業者たちは喜び、マモルは彼らがクルーザーを降りるのを手伝った。最後に誰も残っていないのを調べ、徒歩数分の小道をぞろぞろと歩いた。
その道中で、マモルはまたいろいろな人の名刺をもらった。個人的な連絡先をくれる人もいたし、さっきのはスッキリしたとチップをくれる人もいた。
ホテルロビーに到着すると、ホテルスタッフが冷えた水を次々に渡してくれた。マモルもそれで生き返った気がしたが、その向こうにナベが他の多くの関係者の出入りを見張っているのを見て近づいた。
「もう十五分も経ってる」
そう言うと、ナベはじろりとマモルを見た。
「それが何だ。連絡しただろ」
マモルはうなずいた。ここで喧嘩を売り、そしてボスの印象を悪くする必要もないかと思い直す。
「トイレに行きたい奴もいるみたいだから、順番に行かせていいだろ? 俺も行ってくる。その間、見張りをしててほしい」
そう言うとナベはホッとしたようだった。虚勢は張っていたが、ずっとマモルの手の銃に気を取られていた。
「早く戻って来い」
「OK」
マモルはそう答え、銃をナベに渡した。ナベは両手に武器を持ち、仕方なくロビー前に行った。
マモルは島を出ることが許可されたVIPの荷物を運んでいるホテルスタッフを呼び止め、状況を聞いてみた。これまでに自家用ヘリやジェットで来ていた数人が島を出ており、北の港からもクルーザーで何人かが出たという話だった。ホテルスタッフも監視を受けていて、最近雇われたばかりのスタッフは疑いを受けているようだった。
さっきもらった金をその相手にチップとして渡し、マモルはホテル内に入った。リベルに電話してみると、彼は何かを食べている口調でラウンジにいると言った。VIPの身体検査はそこで行われているらしい。他に隠れている奴がいないか調べてくると伝言を頼み、マモルはプールの方へ行った。
広い敷地のどこかに隠れる場所はありそうだったが、ざっくりは手荒い人間に調べられた後で散らかっていた。闇雲に走り回っても効率が悪い。マモルは仕方なく佐伯ミキに連絡をした。
「…佐伯です」
長い呼び出し後、慎重に警戒した声が出て、マモルは歩きながら小さく笑った。そんなに用心しなくていいだろう。
「えっと、いろいろ言いたいことはあるけど、今は急いでるからこっちの用を聞いてくれ。羽田とは連絡取れてる? 今、俺の邪魔しに来てるだろ?」
「じゃ、邪魔じゃないです、ただ、あまりにも…」
「ごめん、余計なこと言った。羽田とは連絡取れてる?」
「え、はい」
「一番最新はいつ?」
「昨日の夜です」
「島を出る予定はいつだった?」
「昨日の夜です」
「出たって言ってた?」
「いえ…伊達さんと会ったと」
「そうか。じゃぁ他に羽田と連絡取る奴いる? 他の幹部とか。今朝、連絡なかった?」
「え…どうかしました?」
「あ、羽田の現在地わかったりする? GPSで」
「ええと…調べます」
「わかったらメッセージ入れといて。あと、JIPAは他に何人来てる?」
「…三人です」
「羽田入れて?」
「はい。何かあったんですか?」
「動画流出してる。知らないのか?」
「へ?」
「あとは自分で調べてくれ。羽田の居場所がわかったら教えて。あと他の二人の場所も。俺には電話するなよ。俺からする」
ミキがハイと答える前に、マモルは電話を切った。
事故説が有力になった。今頃、ICCも警察も協力して場所の特定を急いでいるに違いない。ケイがどう出るかわからないが、一気に潰そうとなったら、もう既に場所は割れていて、警察のヘリが本部を出たところかもしれない。
そんな情報が入れば、夏木と黒烏会のボスも、いち早く脱出するはずだ。そうなってしまえば、JIPAも混乱に乗じて抜け出せる。が、そうでない場合は犯人探しが続く。
ホテル従業員でも招待客でもなく、売買業者の身分証も持ってないであろうJIPAの三人は、どうやって入ったのだろう。客の荷物持ちとして港で雇ってもらったんだろうか。あるいは水道の修理業者だとか言って入ったのか。
何にせよ、すぐに疑われるのは確かだった。
マモルはバーのカウンターの裏や、プールに併設されているジムの中、トイレや掃除道具入れも見て回ったが誰もいなかった。
ミキから、GPSは切られているという知らせが入る。
マモルはそれがいいニュースなのか悪いニュースなのか判断できなかった。
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