13

7/10
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
 *  マモルは優勝の副賞でもらった防護服を羽織り、ゴーグルと簡易ヘルメットをつけた。そしていつものG2とスプレーを腰に、AM49は背負い、予備の弾はポケットに突っ込んだ。外は荒れてはいるが展示会の準備はそのままで、それぞれ荷物は一旦片付いているが、ケースの鍵や鎖を何とかすればおそらく武器もあるだろうと思った。  外に出て、まず目についたのは、まだハチから逃げ惑っている人々だった。プールに追い込まれ、這い上がろうとして集中攻撃を受け、失神している人もいる。あるいは潜ってハチから逃れたものの、息をしようとするたびに襲われるという地獄に陥っている人もいた。  マモルはスプレーを噴射してハチの勢いを殺し、それからG2でいくつかを撃った。普通の群れと違っているのは、それが逃げないことだった。殺人を教え込まれた虫は、弱った人々をいつまでも狙った。もちろん一部はマモルの方にも来て、マモルはハチを避けながら撃った。  ある程度のところで水から脱出できた人たちは、互いに助け合って逃げた。 「屋内に!」  マモルは叫び、彼らが走っていくのを見た。  元駆除士っぽい人物が、失神している人を助けあげようとしていた。が、途中で手を止める。 「こっちは死んでる。エサにしてしまおう」  その中年の男が言い残して逃げ出し、マモルは眉を寄せた。  耳のイヤホンにリベルの声が届く。 「伊達ちゃん、アリーナで働いてた人たちが、毒持ちっぽい幼虫に襲われてるけど、どうする?」 「中型か」 「中型三体」 「武器がいる。どこに何があるかわかるか?」 「へへ。わかるよ。僕たちチームみたいだねぇ。伊達ちゃん、正面のヤシの木の下にあるブースわかる? その中に口径の大きいのがある」  マモルはまっすぐ前に向かった。そしてアクリルケースを見つける。 「鍵がかかってる」 「そりゃそう。壊そうか。テーブルの下に護身用の銃がある」  マモルはテーブルの下を覗いた。確かに裏にガムテープで銃が張り付いている。 「アクリル部分を狙うんだよ。金属は狙わない」 「わかってる」  マモルは銃を撃ち込んだ。ブシュ、ブシュと穴が開く。  そこからケースを割って、中の銃を取った。  アリーナへの道筋に倒れている人も見つけるが、助けている場合ではなく放置していく。  途中でまずオオルリイラガの幼虫一匹を見つけた。誰かが犠牲になっているが、もう絶命しているようだった。赤い血が幼虫の下に広がっている。  マモルはそれを撃った。動きが鈍い幼虫は、飛ばしてくる毒液や毒のある毛にやられない限りは怖くはない。ただ、毒にやられると麻痺して動けなくなり、生きたまま体液を吸われたり、皮膚を溶かされながら食われたりする。とても恐ろしい奴らだ。  マモルはそんな人たちが点在している通路を進み、あと残り二体が夢中で人を食っているところを撃った。 「動ける人は屋内に」  マモルは声をかけてみたが、ほとんどは麻痺させられて動けなさそうだった。 「援護しようか?」  声がかかり、マモルは後ろを振り返った。  羽田ゴウが何者かから奪ったゴーグルと銃を持って立っていた。 「もう一人は?」  マモルは羽田の後ろを見た。誰もいない。 「うまくVIPに取り入って先に逃げた。何しろハニートラップが大得意な子でね。君には利かなかったんだけど」  あのすごい美人か、とマモルも思い出す。かつてそんな罠をJIPAにいろいろ仕掛けられた。引っかかったこともあれば、見抜いたこともある。 「後でちゃんと回収してやれよ」  マモルは息をついた。羽田はもちろんと答える。軽さは少しリベルに似ている。  二人はひとまず倒れている人たちを、他の虫に襲われないように戦闘ショーの行われていたアリーナの中に入れた。ぐったりした人々が透明ケースにどんどん運び込まれる。 「シュールだね」  羽田が冗談を言いながらも手伝い、何とか作業はすぐに終わった。その間にもリベルからはでっかい蜘蛛が港の手前にいるよと連絡があった。ヘリポートにもムカデみたいなのがいる、という。 「港に八十センチの蜘蛛、ヘリポートに二メートルのムカデ。どっち担当がいい?」  マモルが言うと、羽田は肩をすくめた。 「どっちも嫌だね」 「援護するって言ったじゃないか」 「援護ならね。こっちは現役を離れて何年も経ってる。一人でそんなのと戦いたくない」 「じゃぁ近い方から行く。ヘリポート」  マモルは顎で羽田に方向を示した。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!