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ヘリポートに残された人がいないか見に行くと、壊されたヘリの中に頭から血を出して失神しているパイロットらしき人物と、プロベラが落ちていた先の藪に、腰を抜かしている夏木ジュリがいた。足を怪我していて動けないようだった。
「ひとまず屋内に」
マモルは自分より背の高い彼女を支え、ホテルの別棟へと運んだ。羽田がパイロットを担いで運ぶ。
「SPは?」
マモルが聞くと、夏木はいまいましそうに「逃げた」と言った。
「じゃぁ、他に動かせそうな人に連絡して、近くにいたら集合しておいてください。港の方にも蜘蛛が出てるらしいんで、俺たちはそっちに行きます」
「伊達、その人、テングアリにやられてるぞ」
羽田が言い、マモルは夏木の傷ついた足を見た。そこに赤い小さなアリが数匹いるのが見えた。
「スプレーしろよ」
マモルが言うと、羽田はスプレーのボタンを押し、シュカシュカと気の抜けた音を聞かせた。
「もうないんだよ」
「リベル、殺虫スプレーはどこにある?」
マモルはイヤホンに聞いた。
「えー、そんなのリストにないなぁ。基本装備過ぎて。どこにでもあるんじゃない?」
「医療キットは?」
「ちょっと待ってね。探すから。それより港はいいの? 早いところ片付けちゃってよ。ボスと待ってるんだよ。高速艇に乗りたいから」
「伊達、退治が終わったと思って、人が出てきてる」
羽田がまた恐ろしいことを言い、マモルは外を見た。
逃げるチャンスだと思ったのだろう。ロビーから駐車場へ行き、車に乗り込む者、港へ走り出す者、そしてなんとなく出てきてしまった者がふらついている。
「医療キットは、ロビーの横にある子ども用滑り台の近くのブース」
リベルが言った。
「遠い。今いるところから近いやつ」
「わがままだな。港の近くに蜘蛛の巣がいっぱいできてるよ。大丈夫?」
マモルは舌打ちをした。そして自分の靴の紐を片方だけ外す。
「夏木さん、ちょっと荒っぽくてすみません。時間がなくて」
マモルはそう言い、彼女からちょっと離れた。
そして腕を伸ばしてG2を構える。
「なにするのよ!」
抗議の声が響いたが、マモルは迷わず撃った。夏木が激痛に叫ぶ。
マモルは彼女のくぼんだ膝の上を、しっかりと止血できるように靴紐で縛った。確実に彼女は右足を膝下から切断することになる。
「テングアリが傷口から入って、脳や心臓に達したら死ぬんだから、命拾いしたんだよ。伊達君の対処は間違ってない」
羽田が泣き怒りでわめく夏木に言い、マモルは羽田を急かすようにして外に出た。
「殺しちゃっても良かったのに」
リベルが言い、マモルはイヤホンを切った。
「俺はこのまま、カズを助けに行く」
羽田が言い、マモルはうなずいてラウンジの場所を簡単に教えた。迷路みたいな道だと言ったら、羽田はホテルの調べも済ませていたようで、知ってると言った。
「黒烏会っていうヤクザが見張ってるかもしれない。さっきはその人たちに詰められて泣いてた」
「カズの涙は嘘泣きが九割だ」
「マジで? めちゃくちゃ怖がってたけど」
「あいつ、ああ見えて元軍人で肝は座ってる」
「騙された」
マモルが言うと、羽田は小さく笑った。
「じゃぁな。もし間に合えばヘリポートを突き抜けて来い。JIPAのはそこに置いてある」
「JIPAと組む予定はありません」
マモルが言うと、羽田はマモルを軽く小突いて踵を返した。
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