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 *  駆除士をしていると、いろんなワクチンを毎年何本も打たれる。ワクチン中毒になるんじゃないかと軽口を言うぐらい打たれる。中には打つと二、三日体調を崩す種類のもあって、仕事に支障をきたすと駆除士たちが嫌っているものもある。  が、今回はそれで救われた。  ケイはICUのベッドで落ち着いて寝ているマモルを見て、息をついた。  とはいえ、病院に運ばれてからの一週間は厳重管理されていて、おそらく危険域をさまよっていたのだろうと思う。主治医は何度か「患者の体力に期待しています」と言っていたから、多少の運ゲーみたいなところもあったのだろう。  そして、マモルは生還した。  ICCは既に伊達マモルは外部調査のために一時的に駆除士の業務を解いていただけで、今でも彼はICC所属であるという発表はしていた。昇給の話はまだ聞いていないが、少しぐらいはしてやってほしいとケイは上に頼んである。  大掛かりな展示会を丸ごと検挙できたことは警察も喜んでいた。ただし根幹の主催者もマモルと行動していたリベルも消えており、見方によっては小物ばかりが捕まったと言えなくもなかった。それでも多くの違法業者を捕らえ、メディアにも注目された事件となった。  今回捕まった虫玉業者から、ICCの関係者が何人も逮捕された。虫玉を売ったことがある程度で逮捕していては駆除士が足りなくなるぐらいだったので、軽微な違反の駆除士たちには減俸と、国への利益の返納という形で話が進みそうだった。悪質なタイプは起訴も検討されている。  そしてICC内の勧誘ルートも明らかになっていた。新人歓迎会から始まり、合同調査、研修などでスカウトしていく仕組みはマニュアル化されており、そのマニュアル文書も見つかっていた。  ICCはこれを受け、新人教育の見直し、遵法精神の再教育、駆除士試験の抜本的見直しなどを行うと発表した。  伊達マモルの処遇に関しても検討会議が行われ、昆虫館への侵入や、窃盗、展示会での不必要な殺傷行為は業務上過失として罰せられることになった。同時に展示会場での行動や、逮捕された人たちの証言により、悪質なものではなかったと考えられ、執行猶予という形に話を進められそうだった。  看護師が予告した通り、マモルはしばらくして目を覚ました。  最初は自分がどこにいて何をしているかわかってなさそうだったが、診察を受け、主治医に説明を受けると、実感が戻ってきたようだった。  一時間ほどしてマモルは一般病棟に移された。  そしてぼんやりした目でケイを見ると、酸素マスクをしたまま「おはよう」と言った。 「もう昼過ぎだ」  ケイが言うと、マモルはそうなのかと弱く笑った。
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