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 *  マモルはその夜、ベッドで死ぬほど後悔していた。どう寝返っても眠れず、あんな恐ろしい女をいきなり抱きしめて殺されなかったことにも驚いていた。我ながら、なんて命知らずなことをしてしまったんだろうと思う。  泣いたから許されたのかな。  マモルはそれも恥ずかしかったが、どうしようもなかった。ずっと苦しかった。事情聴取のときは、突然窓から飛び降りたくなる衝動に襲われて仕方なかった。その衝動を抑えると代わりに涙が溢れた。自分でも感情を扱いきれず、情緒不安定で心配された。  一人になったときもぼうっとしているだけで涙が溢れた。意味がわからなかった。カウンセリングを受けて、勝手に涙が出るのは落ち着いていったが、今度は強い無力感に襲われ、食事にもリハビリにも興味がなくなった。毎日頭が痛くて、胃がムカムカした。短い時間しか眠れず、食べ物の味もよくわからなくなった。  メンタルが弱っているということはわかっていた。が、どう取り戻したらいいのかがわからなかった。  ほとんど毎日見舞いに来てくれるケイは、いつもどおりで眩しいぐらいだった。  マモルは自分が情けなくて、彼女には弱みを見せたくなかったが、勝手に吐露している自分にも気づいていた。ケイが羨ましかった。もう一緒に仕事ができないかもしれないと思うと、辛くてたまらなかった。  申し訳ない気持ちでいっぱいになり、涙が溢れた。  そうしたら、あんなドSが、氷の女王なんて呼ばれてる奴が、労ってくれて、ケイの手が背中に温かくて、総崩れだった。マモルは自分が足元からぐにゃぐにゃに崩れていく感覚に陥った。  ケイに支えてもらった。ケイは思ったより細くて柔らかく温かかった。  氷の女王じゃなかった。  ケイが抱きしめてくれて、マモルは辛うじて崩れずにいられた。  バカだなとは言われたが、当然だ。俺はバカだ。あんなことして。  鼻水も服とか髪につけてしまった気がする。  クリーニング代を請求されるぐらいで済めばいいが、もしかしたら損害賠償どころか慰謝料も求められるかもしれない。  あんまり貯金はないけど、大丈夫かな。  マモルは病室の天井を睨み、セクハラ賠償金の相場っていくらぐらいなんだろうと考えた。
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