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そういうことが気になってよく眠れなかったという話をすると、ケイはマモルをちらりと冷たい目で見て、そして自分で持ってきた見舞いのケーキをむしゃむしゃと食った。マモルにはモンブラン、自分にはガトーショコラだった。
「おまえも暇になったもんだな」
ケイが言い、マモルは眉を寄せた。暇じゃない。
「だから、昨日は勢い余って失礼なことをして悪かったって思ってる」
「ああ、私は別に気にしてない。念願の号泣を見られたし」
「まぁな」
マモルは認めた。あれは号泣だ。
「苦しかったんだ。なんかここに、真っ黒の塊がひっかかってて」
マモルはそう言って自分の胸の辺りを指差した。
ケイはそれをちらりと見る。
「もうなくなったのか?」
「ん…そうだな、塊はないな。まだ気持ち悪い感じはあるけど」
「私に鼻水をつけたかいがあったな」
「だから、悪かったって。ごめん」
「おまえ、大事なことを忘れてるだろ」
ケイが言い、マモルは目を丸くした。
「え、何だっけ? 俺、何か約束した? 金?」
ふっとケイが笑う。怖い。
「モンブラン、いらないならもらおうか?」
「いや、食べる。大事なことって?」
「忘れてるなら、おまえにとって大事なことじゃなかったんだろう。私だけが覚えておく」
「はぁ? そんなのずるいだろ。ヒントをくれ」
「元気そうだな。おまえがいない間に、かなりおまえ指名の案件が溜まってるんだ。それを処理したいから早く退院しろ」
「それが関係あるのか? 違うよな。ヒントをくれよ。指名案件は頑張るから」
「いや、いいんだ。私の心がちょっぴり傷つくだけだ」
「え」
マモルは顔面蒼白になる。
「おまえを傷つけること? 何だ? 誕生日はまだ先だろ?」
「気にするな」
ケイは笑みを浮かべてケーキの残骸をゴミ箱に捨てた。
マモルが、今日はそれが気になって眠れないかもしれないと言ったら、ケイは「良かったな」と答えた。
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