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 *  そうやって何度もケイの言葉に振り回され続けた後、ようやく退院が決まった。ケイが「悪夢は減ったか?」と聞いて、マモルははじめてケイのからかいの意図に気づいた。別の気がかりを作って、負担を減らしてくれたのはありがたかったが、もっとうまいやり方もできただろうとマモルは思った。  ケイにそう言うと、彼女は「私にとって一番簡単で、おまえにとって一番効果が出やすい方法を選んだ」と言った。そういう奴だった。  おかげでマモルのメンタルも戻りつつあり、食べ物の味もわかるし、リハビリにも力が入れられるようになっていた。次は早く復帰したくてたまらなくなっており、退院後、初出勤の日にいつから現場復職できるのかと聞いたら、ケイには呆れられた。 「しばらくは事務所で書類仕事だ。駆除士に戻る判定試験も設定するから、その後になる。まぁ、数ヶ月は私の雑務係だな」  ケイは管理官室の机でマモルを前に立たせたまま、サラリと言った。 「へ? 何だそれ。誰が判定するんだよ」 「私と、駆除士代表と、ICCの幹部何人かだな。まだ人選は済んでない。心配するな、おまえに都合のいい結果を出す人選をしてやるから」  マモルはそう言われて仕方なくうなずいた。そこは信じるしかない。 「それより、見覚えはあるか?」  ケイが机のマモル側にタブレット端末を置いた。彼女のピンク色のネイルの指が画面を操作し、写真をいくつか出す。  そこには車椅子に座った大柄な女性の姿があった。横顔だがすぐにわかる。 「夏木ジュリ。展示会の主催者」  マモルはブルーの警察官の制服に囲まれている写真を見て、ケイを見た。 「捕まったのか? リベルは?」 「リベルは行方不明だ。夏木は高飛びしようとしてたところを空港で捕まった」  ケイは写真をさらに繰って、別のを出す。 「これも覚えてるか?」  透明な袋に入れられ、シールで記号が書き込まれた澄んだ空色の虫玉の写真だった。 「俺が昆虫館で作った玉だ。夏木が持ってたんだな」 「違う。これはおまえが持ってた」  ケイが言い、マモルは首を傾げた。 「リベルが夏木に贈り物として渡してた」 「それは、おまえがあの日に着ていた作業服のポケットに入っていた」 「なんで?」 「知るか。とにかく、それが昆虫館から奪われたものだとわかったから、指紋採取が行われ、それが登録されて、夏木が空港の認証でキャッチされた」 「リベルがやったのか」 「知らんが、そうだろうな。その後、リベルから連絡はないだろうな? もしあったんなら素直に吐けよ。後から面倒なことになる」 「ないよ」  マモルは憤慨して言った。なんで疑われないといけないんだ。  ケイは軽く笑う。答えはわかっていたという顔だ。 「俺の指紋とかリベルのはなかったのか?」 「ない。夏木のだけ。完璧だな。敵ながらよくやった。リベルには会ったことがないが、ちょっと会ってみたくなった。おまえみたいな鈍重なのが、よくリベルと組んでもらえたな。扱いやすいのは確かだが」  マモルは肩をすくめた。 「そうだな、おまえらは似てるよ。目的のためには手段を選ばない、容赦ないとことか。夏木が捕まったってことは、一応、俺の仕事は終わったってことだよな?」 「そうだな、おまえは虫を殺して、泣いてただけだけどな」  ケイがタブレットを手元に戻しながら言い、マモルは閉口した。 「もうちょっと優しくできないのかよ。部下のメンタル保持も上司の仕事だろ?」 「JIPAが入手した全ての動画をICCに提供することも決まった。羽田がおまえとなら提携していいってさ」 「マジで?」 「クソJIPAと組むなんて、私はおまえのことも軽蔑しそうだけどな」 「何だよ、ケイは喜ぶと思ってた」 「そういうところが、おまえの減点ポイントなんだ。さて、セレモニーの時間だ。お偉方に義務的に握手してもらいに行こう。それで正式復帰になる」  ケイはそう言って立ち上がり、マモルは苦笑いした。 「俺は、功績を讃えられて表彰されるって聞いただけどな?」  はは、とケイが軽く笑い、マモルは彼女が颯爽とジャケットを翻すのを見た。
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