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この盆休みは、県のいくらか西方を台風が通過した影響で初日に少し雨が降ったものの、その後は夏らしくよく晴れた。天に満面の笑顔を向けるひまわり、警笛のように鳴り響くセミの声、巨大だけれどどこか遠さを感じさせる入道雲、夏休みの宿題の絵日記に描かれる夏そのものだった。
明日で連休も終わり。明後日から仕事だと思うと、一足早いが気分が落ちる。近所からは、田舎に帰省した子どもたちであろう、キャラキャラと笑う声がする。昨日の夜はどこかで打ち上げ花火もしていた。私はこの数日パソコンの前でただ時間を浪費しただけに終わった。明日もきっと同じことをしているだろう。休み前も連休が楽しみだったわけではない。ただ仕事に行かなくて良いことに安堵しただけだ。
くすぶっていても仕方がないので、夕飯を買いに行くことにした。町内のスーパーで勝ち組の里帰り集団と出くわすのは避けたい。少し手間だが、隣町のスーパーへ車を向けた。
地面をじりじりと焼くほど暴力的な日光で、私自身も枯れていく気がする。クーラーをつけるとガソリンの減りが早いので、いつも車内のエアコンはできるだけつけず、つけても弱設定にしかしていない。だが盆ぐらいはほんの少し贅沢が許されても良いはずだ。クーラーの強弱スイッチを1つ余分にひねる。
家からひたすら南へと向かうと、10分もしないうちに県を横断する川にさしかかる。西から東へとゆったり流れる一級河川だが、昔は頻繁に氾濫する暴れ川だったらしい。上流に造られたダムのおかげで、堤防が決壊するような惨事は起きていない。少なくとも私が生まれてからの記憶だと。
川には1㎞ほどの長さの橋が架かっている。片側には歩道もついている。昔はよく通った橋だ。太陽が昇るところから沈むところまで見渡せる気がするほど、遮るものが何もない広大な空間に橋だけが浮いていて、私たちはそこで風を全身に受けながら自転車で通学した。川風は暑い夏でも気持ちが良い。心に涼を吹き込んでくれる。いつだったか、恋の話に夢中になっている友人の長い髪がなびくのを見ながら、自転車に乗っていた。いつだったか、さして面白くもない馬鹿話に笑い転げながら、彼と風を浴びてドライブしていた。今は窓を閉め切って渡る。
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