今夜のディナー

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 橋から目を下に向け東西を見渡すと、川岸に近く、水位が低い時には渡っていけそうな、低い樹木がまばらに生えた草原の島がいくつかある。川の中ほどには、砂と砂利でできた小さな運動場のような中州がぽつんとある。その中州は橋の下から上流側に向かって広がっているので、南に向かっている私の車線側からは見えにくい。私は少しだけ首をひねって中州を見ようと努めた。なぜならこの中州には謎のテーブルが置かれているからだ。  1人車を北に走らせていたある時、何もない砂の真ん中にテーブルらしきものが置いてあることにふと気がついた。なぜテーブル? 不思議に思った時には橋を渡り終え、好奇心を失い、そのまま忘れてしまった。  しかしその橋を渡るたびにそのテーブルを目にする。そのテーブルに最も近い橋の上でも、数百メートルは離れているだろう。運転中の目視ではサイズ感がつかめないので、実際はそれが何か本当のところは分からないが、一見するとダイニングテーブルのように思える。あれ以来橋を通るたびに思い出し、今日もあるかどうかを確認してしまう。BBQの忘れ物かな? でも川岸に近い場所ならともかく、川の流れに阻まれているあの中州でBBQする人がいるのかな? ぼんやりと考えながら対岸へ渡ってしまい、結局何も分からないまま終わる。語る相手もいないから、謎はいつまでも解けないままだ。  行きはテーブルを見ることができなかったが、スーパーにつく頃にはもう忘れていた。夕方というには少し早い時間だったせいか、客も混雑時ほど多くはなかった。店舗前に貼られているチラシを見る。アジの開きが安い。明日の食事にしよう。あとは適当にぶらぶらと店舗を流し歩いて、値引きされている肉と野菜をカートに入れた。  惣菜コーナーに行くと、お盆用のオードブルが山盛り並べられていた。今夜は楽をしたいから惣菜ですませたい。だが量が多く普段より値段の高い商品は私には必要ないものだ。かわいいリボンで縁取られたチューリップ唐揚げの前で、髪をおだんごに結った幼い女の子が父親らしい男性に買って買ってとおねだりしている。私と同年代か少し年上の男性だ。通り過ぎる時にちらと見る。名の知れたスポーツブランドのTシャツ、明るい色のハーフパンツ……多分私の給料1か月分以上しそうな腕時計、詳しくは分からないけれども。私の今着ている物全てを足し合わせた金額より彼のTシャツの方が高いだろうと思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加