今夜のディナー

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 スーパーの外へ出ると、空の片隅に黒雲が見え始めていた。雨の気配がすると思ったが、どうでも良い気がした。むしろ雨に降られたいような気持だった。車を発進させて、ぼんやりと考えた。夕方雨が降ったら、BBQできないのではないかな。冷やし中華の方が雨でも問題なく食べられるよね。さすがにチューリップ唐揚げ1パックでは今晩のメニューに無理だろう。いや、その前にカートのチューリップ唐揚げは元に戻されたかもしれない。そこまで考えた時、前方に橋が見え、芋づる式に例のテーブルを思い出す。  あのテーブルからの連想で、BBQイコール川辺と思い込んでいたが、必ずしも露天でするとは限らないだろう。室内、屋内、屋根付きBBQ場もあるのは知っている。彼女たちは夏の雨を残念に思いながらでも、家族との憩いを楽しむことができるのだ。  何だかもうたまらなくなってしまった。橋を渡らずに橋近くの河川敷公園へハンドルを切った。駐車場に車を停め、何をするでもなく、目の前の公園を見つめた。芝生で覆われたグラウンドと、その脇に子ども向けの遊具が設置されている楕円形の公園で、公園の外側は駐車場がある場所以外は竹林で囲まれている。駐車場からグラウンド、縦横に遊歩道の整備された竹林を北へ突っ切ると、川べりに出ることができた。普段鮎釣りをしている釣り人は、その遊歩道から川へ向かっているのではないだろうか。  遊歩道を通っていけば、ちょうど例のテーブルがある中州の正面近くに出られるはずだと気がついた。誰も席についてくれないテーブルが、雨に打たれて砂浜の上に一台、物も言わずに直立している。  多分歩いて中州までは渡るのは難しい。でも冷やし中華は雨に濡れながらでも食べることができるさ、きっと。冷やし中華と箸をビニール袋に入れて、私は車から出て歩き出した。  5分もしないうちに、光が消え、頭上を黒雲が覆う。とにかく川べりに急いだ。竹林を抜け、川の流れに沿って作られた遊歩道に突き当たる。そこから川へ目を向けてがっかりした。遊歩道から川へは雑草や樹木が生い茂り、どこへ向かえば良いのかとても分からない状態だったからだ。もごもごと絡み合った雑草の山をいくつかこえた向こうに、サバナのような草原が見える。例のテーブルがある砂利の中州は更にその向こうにあるはずだ。草の繁茂する視界では、テーブルのある場所がここから東か西か判定することさえできなかった。  せめてテーブルを見ながら夕飯にしたかった。テーブルを眺めながら食べている間だけでも、私たちは一緒の時間を共有できたはずだ。
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