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バラバラっと強い音がして、頭や肩に大粒の水が当たり始めた。夕立だ。確か遊歩道沿いにはところどころ東屋が建てられていたと思う。竹林を抜ける遊歩道には公園側に1つあったが、そこまで行くには少し時間がかかる。川沿いの遊歩道で東屋を探す方が早いかもしれない。私はとりあえず西に向かって走り出した。ほどなくして屋根付きのベンチとテーブルが見えたので、私はそこへ飛び込んだ。
「うわっ!」
誰もいないと思っていた東屋に先客がおり、慌てていたのでぶつかってしまう。ビニール袋を勢いよく落としてしまい、その拍子に冷やし中華のプラスチック容器の蓋が外れ、黄色い麺が地面にたたきつけられた。
「びっくりした~!」
相手は若い男性だった。私より少し年下だろうか。背が高く、シンプルながら垢ぬけた格好をしていた。彼は驚きながらも、私を支え、にっこりとほほ笑んだ。今流行りのイケメン顔というわけではないが、人好きのする笑い方だった。
「お姉さん、大丈夫?」
正直大丈夫ではなかった。髪は乱れ、ずぶ濡れとまではいかないが雨で服が肌に張り付き、2割引きシールの貼られた蓋が地面に転がって、その横で麺が波打っていたのだから。顔から出る火で、雨が蒸発するほど恥ずかしかった。
「お姉さん、気づかなくてごめんね。これ晩ご飯だった?」
ただうなだれて頷く他に仕様がなかった。彼は申し訳なさそうなそぶりを見せたが、そうだと声をあげた。
「お姉さん、俺もこれから夕飯食べるつもりなんだ。一緒に食べに行こうよ!」
突然の申し出に思わず顔をあげた。初対面の人と食事に行くだって? 街角でナンパならまだ分かる。こんな薄暗い竹林の傍らで、夕立に濡れそぼった2人が食事? 一般的には危険を感じる案件だ。でも、と思う。彼の目はとても純粋に見える。今も私の答えを、ただまっすぐ待っている。それに食事に行こうと行くまいと、雨が上がるまではここで一緒にいるはめになるし、駐車場まで歩いていくコースは同じなのだ。
「ほんと、今日の夕飯は待ちに待ったとっておきなんよ。ぜひ一緒に食べたいなあ」
私は深く考えるのをやめ、彼の申し出を受けることにした。
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