その瞳、優しく

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姫は決まって真っ先に良いソファに身を預け、時に眠そうに目を閉じかけ、 時に僕を伺うように大きな瞳で僕を見つめる。 疲れがほとびて行く。 澄んだ瞳。切長の瞼。 目と目を合わせると吸い込まれそうだ。 今日は嫌なことがありましてね、出先の顧客、これでもかってくらい嫌味を言い通しだった。こちらも取り引き相手だからね、そう簡単に言い負かして気を晴らせばいいってものじゃないでしょう、相応に失礼のないようにとは思いながら、そこまで嫌味ったらしく続けなくても、という気にもなるでしょうよ。大概こちらも嫌気が差して、もう二度と顧客に当たりません様にと願うばかりなのですよ。 はあー。 僕は姫を退屈させまいと、今日の出来事などをひとりでに話し始めてしまう。 姫を伺うと、何も言わずに、うなづきながら僕の手を優しく取って、その肩に手を回したり、慰めようとしてくれているのだろう。か。 柔らかな手触りに僕はまた、陶然となっている。 そうすると漸く僕は、心身に張っていた神経を弛めることが出来るようになって、ぐるりと首を肩の回りに回したりなどしつつ、ひとりごちていく。 僕は最早外で起こった世事のことは忘れつつある。 姫は時に僕の頭に手をやり、軽く撫でる様なこともある。 大儀じゃった。よきにはからえ。 そのように透明な瞳で僕を労う様なこともある。 ははっ。 僕は姫に従いその手を取り、ソファから降りるのを手伝ったり、伸びをする姫に習い、伸びてみたり、城の中に自分が馴染んで行くのを心地よく感じている。 つくづく我が城の主がこの方であってよかったと、姫の頬に手をやって嫌がられてみたりして、そこ迄打ち解けるとすっかり姫も僕に馴染んで膝の上に足を置いたりしてくるのである。 そんな事を毎日繰り返している。 ミャオン
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