雨上がりのバス停

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 私は何も出来ない人間なの。  何かを始めようと思っても、そのことに取り組む準備のふりだけをして、本当にやり始めることができない。勉強だって、部活だって、趣味だって。もっと言ってしまえば、将来の仕事のことも考えなきゃいけないとわかってる。周りの人はアパレル系に行きたいとか、外資系で働きたいとか、中にはどこの企業に就職したいっていうところまで決まってる人もいる。だけど、自分は何をしたいのかもわからないし、何ができるのかもわからない。だからこうして、高校生らしいことに打ち込むふりをして、それに向き合うことからただただ逃げてる。  趣味でやってる箱庭作りだって、何の役に立つかわからないし、フルートだって人前で演奏できるほどは上手じゃない。どれも息抜きでやっているだけで本当に打ち込めることがひとつもない。  かといって人間関係の方で充実しているわけでもない。恋人が作れるほど美人でもないし、器用でもない。だからといってそういう人たちに追いつこうとするほどのやる気も出ない。恋人どころか友人も数えられるくらいで、その友人さえも傷つけてしまってから、ようやく後悔してる。  私、誰かの生活の一部になっているのかな。  私が消えても、誰の生活も変わることなく、壁の汚れがなくなったくらいの影響しかないんじゃないかな。  特に誰かを喜ばせるようなこともせず、目前のことに夢中なふりだけをして中身が空っぽな私に、存在する意味なんてあるのかな。  まあ、誰も気にしてないだろうけど、そんなことを一人勝手に考え込んでるんだよね。  野乃実はそう言って、諦めたように笑った。 「ごめん。こんなどうでもいい話を聞かせちゃって」 「俺は」  郁也は静かにそう言った。乗客は少しずつバスを降り、半分くらいの席が空席になっていた。
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