川で遊んでいたら

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 背筋を撫でるような響きの声と共に、ぐっ、といきなり引き寄せられる。  思わず膝が折れてしまい、川に倒れ込んでしまった。両手を川底について起き上がろうとするが、頭を男の子のものであろう手が押さえつけてくる。  顔が水の中に沈み、息ができなくなった。どうにか逃れようともがくが、子どもの力ではなすすべがない。  息が苦しくなる。鼻から水が入り込み、ツンと痛む。たまらず開けてしまった口から、冷たい水が浸入してきた。  もうだめだ。意識が遠のきかけたそのとき、 「何やってるの!」  突然、誰かの手で抱き起こされた。そのまま、ずるずると川岸まで引きずられていく。  飲み込んでしまった水が気管に入り、激しく咳き込む。背中を誰かが手で擦ってくれた。 「大丈夫、きみ?」  咳が落ち着いてきて、ようやく田辺くんは目を開き、周りを確認することができた。心配そうな顔で、自分のことを覗き込んでくる中年の女性。裸足で、手足が濡れている。自分のことを助けてくれたのは、きっとこの人だと察した。 「すみません。ありがとうございます……」 「よかった、大丈夫そうね」  お礼を言うと、女性は安心した様子で言葉をかけてくれた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加