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背筋を撫でるような響きの声と共に、ぐっ、といきなり引き寄せられる。
思わず膝が折れてしまい、川に倒れ込んでしまった。両手を川底について起き上がろうとするが、頭を男の子のものであろう手が押さえつけてくる。
顔が水の中に沈み、息ができなくなった。どうにか逃れようともがくが、子どもの力ではなすすべがない。
息が苦しくなる。鼻から水が入り込み、ツンと痛む。たまらず開けてしまった口から、冷たい水が浸入してきた。
もうだめだ。意識が遠のきかけたそのとき、
「何やってるの!」
突然、誰かの手で抱き起こされた。そのまま、ずるずると川岸まで引きずられていく。
飲み込んでしまった水が気管に入り、激しく咳き込む。背中を誰かが手で擦ってくれた。
「大丈夫、きみ?」
咳が落ち着いてきて、ようやく田辺くんは目を開き、周りを確認することができた。心配そうな顔で、自分のことを覗き込んでくる中年の女性。裸足で、手足が濡れている。自分のことを助けてくれたのは、きっとこの人だと察した。
「すみません。ありがとうございます……」
「よかった、大丈夫そうね」
お礼を言うと、女性は安心した様子で言葉をかけてくれた。
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