川で遊んでいたら

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 この体験をしてから、田辺くんは川に近づかなくなったという。あの日の記憶に蓋をして、二度と思い出すことのないように、だ。  幸いなことに、それからは平穏な日々が続いた。  しかし田辺くんが高校生になり、友人の輪も広がった頃のことだ。  友人の中に怪談が好きなAくんという同級生がいた。  彼は、田辺くんが通っていた小学校を知ると、目を輝かせて聞いてきた。 「そこって、あれだろ。裏手に、川があるよな?」 「あ、ああ」 「親たちにさ、しつこく言われなかった?夕立がくるまえに川から離れろって」 「確かに言われたけど、どうして知ってるの?」  ふふん、とAくんは得意げな顔をして、 「あそこさ、前に人が死んでるんだよ。川で遊んでた男の子が、流されちゃったんだ。上流の方で夕立が降って、それで水かさが増えたのに耐えられなかったんだろうって。偶然通りがかった中年の男性がその子を助けようとしたんだけど、その人も巻き込まれて死んじゃったんだって。  それからは夕立が降る日、川に男の子の幽霊が出るようになった。だから、町の大人たちは子どもに、夕立が降りそうな日は川に近づかないよう注意するんだ。あくまでも幽霊のことは伏せたままで、ね」  話を聞いて、田辺くんは全身に鳥肌が立つのを感じるのと同時に、これまで気がかりだったことの答えが得られた気がした。
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