5.

2/4
前へ
/20ページ
次へ
 右手の甲にできた深い傷から、見る見るうちに血がしみ出てきた。トラの爪切りを怠っていたことを、私は激しく後悔した。  いや、トラの爪は、私をひっかいたあの瞬間、猫のものではなかったかもしれない。  私に踏まれた瞬間だけ、トカゲになってしっぽを切って逃げたトラである。私をひっかく時、自分の爪をライオンやクマの爪に変えることだってできるはずだ。でなければ、こんなに血が出るはずかない。  口に自分のしっぽを加えたトラは、しなやかに身を回転させて地面に着地した。心なしか、その顔は誇らしげに見えた。 「トラ…、そんなに私のことが嫌いなの?」  トラは素早く、今度こそどこかに立ち去った。 「何ということだ!」  鳩が苦々し気に叫んだ。 「もう少しで夕立に追い付けるところだというのに…。尾まで持ち去るとは、あの猫はどういうつもりだ?!」 「迷うておるのです。夕立に癒されるべきか、今のままでいるべきか」  どこからか、大きな茶虎の猫がやってきて言った。 「並み以上に妖力の強い奴ですが、器が追いついていない」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加