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右手の甲にできた深い傷から、見る見るうちに血がしみ出てきた。トラの爪切りを怠っていたことを、私は激しく後悔した。
いや、トラの爪は、私をひっかいたあの瞬間、猫のものではなかったかもしれない。
私に踏まれた瞬間だけ、トカゲになってしっぽを切って逃げたトラである。私をひっかく時、自分の爪をライオンやクマの爪に変えることだってできるはずだ。でなければ、こんなに血が出るはずかない。
口に自分のしっぽを加えたトラは、しなやかに身を回転させて地面に着地した。心なしか、その顔は誇らしげに見えた。
「トラ…、そんなに私のことが嫌いなの?」
トラは素早く、今度こそどこかに立ち去った。
「何ということだ!」
鳩が苦々し気に叫んだ。
「もう少しで夕立に追い付けるところだというのに…。尾まで持ち去るとは、あの猫はどういうつもりだ?!」
「迷うておるのです。夕立に癒されるべきか、今のままでいるべきか」
どこからか、大きな茶虎の猫がやってきて言った。
「並み以上に妖力の強い奴ですが、器が追いついていない」
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