6.

1/2
前へ
/20ページ
次へ

6.

 その時、ギャニャ~ンという声が聞こえた。するとトラが、先程走り去ったところとは全然別のところから飛び出して、前方の道路を横切って行った。 そのすぐ後を、大きな黒猫が追って行く。  ほんの一瞬だったが、トラは泥と傷だらけだったように見えた。さっき私から奪ったしっぽは、ちゃんと持っていただろうか?  ふと見ると、道路の向こうのほうから三毛猫がこちらの様子を窺っている。あっちにはブチ猫もいる。  トラと黒猫が消えた方角から、ギャアア、シャアアという声が聞こえてきたが、ゲコゲコというカエルの合唱が始まって、その声はかき消された。  冷たい風が、びゅうと吹いた。  ゲコゲコゲコゲコ…というカエルの声は、最近では珍しいほど高らかに辺りに鳴り響いている。  二人の男子高校生がここを通りかかった。 「おっ。ここ、猫が集まってる」 「また雨降りそうじゃね?」  二人の高校生は私達のことなど全く気にかけもせず、すたすたと歩いて行ってしまった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加