11人が本棚に入れています
本棚に追加
3.
鳩を見失ってはいけないと走り出したが、こちらは空でなく、地上を行かなければならない。
しかも、住宅街の入り組んだ道路である。
本当にこのまま鳩を追って行けるのだろうかと思っていたら、鳩のほうがひゅーっと下まで降りてきた。
「このまま南西に向かうぞ」
鳩は私の頭の右斜め上1メートルの位置で、私に指令を出した。
「見えるか。あの雲だ」
家々の間から、その方向の空に灰色の雲が立ち込めているのが見えた。雲と雲の間が時々ぱっと光るのは、さっきから微かにゴロゴロとなっている雷だろう。
「あの雲の下まで行くの?もしかして、もの凄く遠いんじゃ…」
鳩はちらりと私を横目で見た。
「やめたいか?」
「やめたいとかじゃなく、あんなところまで走れないっていう意味なんだけど…」
「走れるさ。わしと一緒ならな」
一瞬、鳩がニヤリと笑った気がした。そして両方の翼を広げて、すーっと上昇してしまった。
私は必死で地上を走って追いかけた。右手には、ジタバタと暴れるトラの太いしっぽを持っている。
最初のコメントを投稿しよう!